プロローグ ボーイ・ミーツ・ガール ボーイ・ミーツ・ダイナソー

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プロローグ ボーイ・ミーツ・ガール ボーイ・ミーツ・ダイナソー

 白亜司道(はくあしどう)は夜道を全力で走っていた。奇妙な奴から逃げているのだ。 塾を終え、友人達とファミレスで腹ごなしの軽食を食べ終え、自宅である白亜歯科医院への帰路へと就いている最中のことであった。繁華街を抜けて住宅街へと入ると、家と家を挟む狭い路地よりヌーっとした奇妙な奴が出てきたのは。 奇妙な奴とは、変質者…… いや、人ではない。 なんと、恐竜である。  司道は路地から顔を出した恐竜の姿を見て、一目で「ヤバい」と感じ、脱兎の如く逃げの一手を打ったのだ。 その恐竜はディノニクス、後脚の鉤爪と長い尻尾を特徴とする獣脚類恐竜である。 ディノニクスと言う名前の意味であるが、後脚のみならず、前脚にも鋭い鉤爪を持っていることから見た目そのまま「恐ろしい爪」である。  司道はその恐ろしい外見を前に踵を返し、満月の月明かりと外灯に頼りながら住宅街を只管に逃げ回っていた。 夜目を頼りに辻を曲がれば、追加のディノニクス! 始めは一匹だったディノニクスも知らないうちに三匹にまで数を増やし、先回りするように辻の先に待ち伏せをされ、逃げ道を塞がれているのであった。 「誰か! 誰か助けてーっ!」 司道は疾走しながら叫ぶも、いつの間にか辿り着いていたのは町外れの廃工場。 バブル崩壊以降、昭和・平成・令和と放置されて解体もされずに半ば心霊スポット扱いされ、地元民、それも地元のヤンキーの肝試しの用途にしか使われていない。  天窓より入る満月の月明かりに照らされる司道とディノニクス。司道はディノニクスの光る爪の輝きを前に「あの爪に八つ裂きにされて死ぬなんてやだなぁ…… 爺ちゃん、これまでありがとう。そして、こんな半端なところで死んでごめん」と、男手一人で自分を育ててくれた祖父に感謝と謝罪をし、死を覚悟するのであった。  ディノニクスは前脚の爪を前に伸ばし、司道に突きつけた。地面と爪がガチンガチンと当たる音が辺りに響き渡る。 いよいよか。せめて爺ちゃんに最後のメールでも送っておきたかったけど、それも無理そうだ。そう考えた瞬間、天窓が激しく割れる音が聞こえてきた。 割れた天窓より、激しく回転をする棒のような物が飛んできたのである。 それは死を覚悟した司道の目の前の地面に突き刺さった。 「ピッケル……?」 天窓から飛んできたのはピッケルだった。工事現場で使うようなピッケルとは違って、全体的に色が白く、どこか機械的なギミックが付いており、玩具屋に売っているようなDXと銘打たれたヒーローの武器の玩具を思わせた。
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