その日は殆どの人にとって特に何でもない一日だった

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 その子は一言も喋らなかった。  誰にも原因は解らなかったし、それは殆どの人にとってどうでも良い事だった。  その子はよく地面に絵を描いていた。  特に周囲に迷惑をかけるわけでもないので、誰も止めなかった。  その子はよく空を見上げていた。  通りすがりの人がつられて上を見上げたり、優しい人が「どうしたの?」と訊ねる事が偶にあったが、その子は何も反応しないので、皆通り過ぎていった。  その子は旅に出た。  誰もその子が居なくなった事に気づかなかった。  その子は旅に出て、絵を描いて、空を見上げた。  何度も、何度も、何十キロも、何百キロも、歩いては、地面に何かを描き、空を見上げ、その間誰とも何も話さなかった。  そしてそんな子を誰も気に留めなかった。何の絵なのかを理解できる人もいなかった。  ある日、その子は転んで頭を強く打ち、即死した。周りには誰も居ないので、その事に気付いた人は居なかった。  ………………………… 「☆♪$55…〒(なんて素晴らしい絵なんだ)」 「○|,5々$:(こんな美しい絵を描く生命体を今滅ぼすのは勿体ないかもしれん)」 「4%^<0,96×(上に報告してみよう。きっとわかってくださる)」 「○×€#*÷(そうだな、一旦帰還しよう)  …………………………  その日は殆どの人にとって、特に何でもない一日だった。  ただ、  地球から遠く離れた惑星に住む  人類より遥かに高度な文明を持つ生命体が  その日、  人類への侵攻を止めた。
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