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夏の終わりに君らは去った
タケル! とタケシ兄ちゃんが呼んだ。それでも構わずタケルは僕にのしかかって尻尾をブンブン振る。
「本当タケルはユウタが好きだな」
僕は出されたスイカを齧りながらタケルを好きにさせている。タケシ兄ちゃんは好きだけど、犬はあんまり好きじゃない。タケルは僕に懐いているけど、嬉しくもない。しかもタケルはタケシ兄ちゃんが名付け親らしいんだけど、名前が似すぎてて紛らわしい。お父さんの故郷に毎年夏休みに帰省してはタケルの歓迎を受ける。じゃあ来なきゃいいと思うだろ? そうはいかない。僕はタケシ兄ちゃんが大好きだから年一回のお父さんの帰省には必ず着いて来たいんだ。
「あら、タケル疲れちゃったか」
タケルは僕とタケシ兄ちゃんの間に入って寝息を立てる。タケルは吠えたりしないけどやんちゃだ。僕らがそうっと離れようとするとすぐに気付いてあとを追ってくる。そんなもんだからお風呂とトイレ以外はタケルは僕が帰るまで張り付くのだ。
せめてスイカ食べている間だけでも大人しくしてくれと願いながら二切れ目のスイカに手を伸ばす。お父さんとお母さんはおじさんおばさんと一緒におじいちゃんの畑を手伝いに行っている。その間に僕がすることは遊ぶことと宿題をすること。もちろんタケシ兄ちゃんは監視役だ。
「じゃスイカ食べたら宿題やろうか?」
「明日じゃ駄目?」
「駄目だよ。今日の分は今日終わらせよう」
十八歳のタケシ兄ちゃん。十一歳の僕。六歳のタケル。毎年いつもいるのはこのメンバー。タケシ兄ちゃんは高三だから受験とかあるのかと思ったら就職するのだとお父さんが言っていた。勉強が嫌いな訳でもなさそうなのに大人ってよく分からない。
タケシ兄ちゃんに見守られながら宿題を開く。タケシ兄ちゃんは、僕が宿題をやるのを眺めているだけかと思えば僕が記入した解答欄を時々指差す。間違っているよの指摘だ。答えを教えてくれる訳じゃなく、自分で考えなと指差す以上のことはしない。
その間、タケルは僕の横で寝息を立てている。勉強しているときに騒いだらタケシ兄ちゃんに怒られるのをタケルも分かっているのだ。
「終わったぁ!」
宿題をはじめて一時間。僕は思った以上に進めて、声をあげながら宿題を閉じた。瞬間にタケルが僕にじゃれついてくる。
「ちょっと! やめてやめて!」
「はいはい。タケル落ち着こうな」
タケシ兄ちゃんがタケルを僕から引き離して、タケルの頭を撫でる。
「タケルはユウタが大好きなんだよ。さて、ユウタどこか行くか? 川でも行くか」
ホッと息をついて頷いて見せる。
「タケシ兄ちゃんの釣り見たい! それで焼き魚にして食べたい!」
「よしきた!」
田舎にいる夏休みはこうやって過ぎていく。僕もタケルと同じくタケシ兄ちゃんにべったりなのだ。
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