【第2話 : 土屋 1】

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 この思考のループに陥ってから、かれこれ一時間以上経過している。  ベンチで一人苦悩している三十男の姿が不気味だったのか、滑り台や砂場で遊んでいた子供たちとその親はいつの間にか居なくなっていた。  まさか、僕が強盗のバイトをする羽目になるなんて。  小さい頃から臆病で、真面目に生きることで可能な限りトラブルを避けようとばかり考えていたのに。  そんな僕が、人様から暴力的に財産を奪うなんていう行為に加担するなどできるのだろうか。  百歩譲って、相手が悪人だというのならまだ納得できる。  それでも強盗なんて許されないけれど、少しは心を軽くすることができる。  ところが、今夜襲撃する予定の長島氏は違う。  先ほどの下見の際に近所の人から話を聞いたところ、福祉関連の施設をいくつも経営していて、人柄も素晴らしい老人とのこと。  そんな善人を襲うだなんて。  今考えると、長島氏の人柄についてなどいちいち聞かなければよかった。  いっそ、「長島邸が襲撃される」という情報を持って警察に駆け込もうか。何度もそう考えた。  だがそのたびに、右腕に刺青の入った強面(こわもて)の面接官の顔が頭に浮かぶ。  確か福田という名の男だった。 「長島の家には、ウン千万円の現金がある。それを狙う。もしこの情報を漏らしたら、お前の家族は死ぬより辛い目に遭うと思え」  面接の際に言われた脅し文句が、脳にこびりついて離れない。  駄目だ、やっぱり警察には行けない。  そんなことをしたら家族が……。  でも、強盗の手伝いなんて死んでもしたくない。どうすれば……。
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