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俺と彼女は無言で空を見上げていた。
雨さえ降らなければ、俺が傘をもっていれば、彼女と言葉を交わすことなく家路に着いていただろう。
これは、もう二度と浮気をしないと誓った俺に対する試練なのかもしれない。
「ここにはよく来られるのですか?」
だが、人間すぐには変われない。
「はい。ひとりになりたい時に。」
「分かります。そういう時ってありますよね。」
彼女は俺の方を向いた。
バーの暗がりで見た時も思ったが、清楚で美人な方だ。
「でも、恋人さん寂しがりません?」
「え?」
「あ、いきなりすみません。あなたみたいに素敵な人には恋人がいるだろうなと。」
「そういうことですか。あなたの方こそ男性がほうっておかないでしょう?」
びっくりした。
と同時に、彼女に深入りしてはいけないと直感した。
「そんなことないですよ。今夜、別れたばかりだし。私って男性を見る目ないんです。自業自得。」
このまま、恋人が居ることを隠して、彼女を雨宿りを口実に家に連れ込むこともできるかもしれない。
いや、だめだ。
欲望に負けるな。俺は正しく生きると決めたのだから。
「あなたと別れるなんて男性の方こそ見る目ないのですね。」
「あなたじゃなくて、萌。」
「萌さん。」
「あなたは?」
「俺は朔です。」
「朔さんみたいな人と出会えてたらよかったのにな。」
やめてくれ。
これ以上、踏み込んでくるな。
俺の化けの皮が剥がれてしまう。
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