銀河鉄道江ノ島線の夜

4/8
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 五頭龍と聞いて、波雪は自身の生まれ育った江ノ島に伝わる物語を思い出す。かの龍はこの周辺地域で暴れまわって人々を困らせていたが、大地震の後に浮上した江ノ島とそこに降臨した天女に一目ぼれして心を改め、人々に尽くした。寿命を迎えるとその身は山へと転じ、今でも江ノ島を守っている……そう、語り継がれてきた。 「オレ達の生まれた世界にゃ、断罪竜とかいう、生き物の罪を裁く目障りな神がいやがってな。オレ達ぁ五人で組んで動く盗賊だった。男と爺婆は金を奪ったら殺し、女は犯して子供は売り飛ばす。犠牲にした人数なんか覚えちゃいねえ。そういうオレらにあんちくしょうから下された神罰っつうのが五竜になることだった」  涼しい顔してとんでもないこと言うわね……それも、かつて自分の愛した人の面影を感じるその顔で。調子が狂うわ。と胸の内でこっそりぼやきながらも、波雪は黙って話の続きを聞く。  彼ら五人に下された神罰とは、五人の魂をたったひとつの体で共有する一蓮托生。数多の時空を渡り歩き、罪ある者を愛してはこれを更生させ、しかしその愛を実った瞬間には打ち切って別の時空へ旅立つ。五人がそれぞれ交代制で、それを「自分達が人を殺したのと同じ数だけ繰り返す」ことだという。 「龍人はオマエを更生させたから次の異時空へ飛ばされて、オレ様にバトンタッチしたってぇわけだな」 「強制移動されたってんなら、なんだってあんたは今ここにいられるわけ?」 「盆だから。あの銀河鉄道に密航してちょちょいってな。龍人はちょっとしたきっかけでオマエがもう死んだことに気付いて、だったら自分達の事情を伝えてぇって言うもんだからよ」 「事情はわかったけど、あの龍人がそんな……極悪人だなんて、とても信じられないんだけど?」  今にして思えば馬鹿げた過ちだったと思うのだが。高校生だった頃、波雪は非行少女だった。きっかけはそれこそささいなこと。子供の頃から憧れていた第一志望の高校に不合格で、滑り止めの高校に通うことになったのが不満だったから。波雪なりに懸命に努力して目指していた、数年がかりの夢が叶わなかったから。  龍人は不良仲間とつるんでいた自分を身を張って彼らから遠ざけて、少しずつ自分の心を癒していって、最後には救ってくれた。望まぬ別れではあったけれど、波雪は彼の優しさを心から愛していたのだ。先ほどリュートの並べ立てた、彼らの罪……それと龍人の印象は、とてもじゃないが結びつかない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!