第3章 魔法は解けるものだから

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 ここで「もう帰ります」と言ったほうが、賢明なんだろうな。  と、それはわかっているのだけれど……  断るなんて、ありえない。もったいなさすぎる、ともう一人の自分が必死で引き留めている。  うーん、どうすればいい?  なかなか返事をしないわたしに向かって、彼は「ここはどう?」とスマホを差し出した。  見せてくれたのは、夕日が海に沈んでいく動画。  どこかのお店の席から撮影したものらしい。 「わあ、とっても綺麗」 「ここに行きたくないか? 今から行けば、日没にぎりぎり間に合いそうだ」 「場所はどこですか?」 「葉山にあるレストランなんだけど、今日は天気がいいし、最高の夕日が拝めると思うよ」  ちょっと待って。  超絶イケメンと葉山のレストランでディナーをいただきながら、こんなに美しい夕日を楽しむなんて。  なんて贅沢で魅惑的なお誘い。  ほぼ行くほうに気持ちは傾いていたけれど、この一言がダメ押しになった。 「知り合いのフレンチの店でね。食事も絶品なんだけど、ワインがまたうまくて。料理にぴったり合わせてくれるんだ」    しかもしかも、極上のワインつき……
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