月へふたり旅

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月へふたり旅

「卒業旅行さ、どこいく?」 「そうだ!せっかくだから、月に行ってみようよ」 そして、3月。 あたしは親友のユズキと一緒に、月行きのシャトルに乗っていた。 西暦21××年。 月への旅行が当たり前になったとはいえ、あたしたち大学生にとって、2泊3日の旅行代金は結構な贅沢だ。 だけど、お互いの進路はばらばら。 卒業したらなかなか会えなくなるかもしれない。 そんな思いに背中を押されて、ふたりでバイト代を貯めて月までやってきた。 「カンナ、見て!」 あたしたちが泊まる、ムーンライトホテルのロビーからは、漆黒の宇宙に浮かぶ地球が見えた。 「すごい……キレイ」 月から見る地球は、小さな青い宝石みたい。 有名人が言ってたことは、ホントだって初めて知った。 初めての月。 もう二度と戻ってこない、親友とすごす時間。 「ねえ、カンナ。ラウンジでさ、アフタヌーンティーセット、なんてどう?」 「いいねー、賛成!」 精一杯オシャレしたあたしたちは、ちょっと大人な女を気取って、最上階にあるラウンジに入ってみたんだ。 案内された窓際の席からも、ガラスごしに小さな地球が見える。 「うわーっ、こっちもキレイ!」 「ホントだ!食べるのがもったいないくらい」 3段のティースタンドに並んだ、宝石みたいなスイーツたち。 スコーンやサンドウィッチもある。 ポットに入った紅茶をティーカップに注いで、あたしたちはケーキをお皿にとった。 「……いただきまーす」 おいしいスイーツとおいしい紅茶。 そして、親友とのおしゃべり。 もう二度と戻ってこない、アオハルな時間。 「ねえ、ユズキ」 「……ん?」 いつか、色あせた思い出になって、忘れちゃうのかな? ……そんなの、イヤだな。 「卒業しても、ずっと親友でいてくれる?」 「もちろん!……いつかまた、一緒に月に来ようよ」 「うん。……約束ね」 この時のあたしたちは知らなかった。 生き抜くだけで精一杯で、月に来る余裕なんてない。 そんな毎日がやって来てしまうなんて。
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