contents:15 倖多き世界

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 side.三宮慧悟  俺は、心のない空っぽの人間だった。  父は、事業家でいつも忙しくしていて、  家の中で会うことは、ほとんどなかった。  母は、父のお飾りの女で、俺の事は乳母に任せ、  自分を綺麗に見せる物、事に余念がなかった。  俺は、そんな環境で育ったため、感情の出し方が分からなかった。  だから、今日まで無感情に生きてきた。  俺の心には、響くことが何もなかった。 「なあ、慧悟。おまえ、そんな生き方してたら、いつか死ぬぞ」 「死ぬか、そんなんで」 「心が死ぬんだよ。身体が死んだらそれまでだが、心が死んだらしんどいぞ?」 「…」  俺が、唯一心を見せる、親友でもある蓮は、  俺に常にそう、言い続けてくれた。  俺がそこで踏みとどまっていたのは、全て蓮のお陰だ。  蓮は、親父の言うまま、ホテルの社長になる俺を、唯一心配してくれた。  そして、心配するあまり、勤めていた会社を辞め、俺の秘書として、今日まで傍で支えてくれた。  そんな時、俺の心を震わす人物が現れた。  渡邊舞香  一瞬で俺の心を鷲掴みにした彼女は、  既に他の男のものだった。  心が彼女を渇望する。 「慧悟、調べたら少し彼女の周囲が騒がしい。少し待て。動きがあるかもしれない」  蓮がそう言った通り、彼女の世界に大きな変化が起き、  彼女は、俺の世界にやって来た。  舞香は、俺の世界に色を付けてくれる。  俺は、傷ついた舞香の心をそっと癒やしていく。  すると舞香は、少しずつ俺に心を開いてくれた。  俺の枯れた心を満たし、  俺が幸福を与え、  俺に幸福を与えてくれる。  舞香は俺の、運命のひと()だった。  下心満載の俺を、舞香は何も言わず受け入れてくれた。 「下心はどうあれ、慧悟さんは私にとても、誠実でしたから」  舞香の幸せは、俺だけでなく、  舞香が大切にしたいものすべてに伝播する。  俺は、舞香を幸せにすると決めたが、  実際は、舞香に幸せにしてもらっているのだ。  俺が大切に思うホテル。そして、それに関係する人たち。  舞香は俺の大切な物を、自分の全てをもって護ってくれる。  そんな舞香を俺は、俺の全てをもって護り続ける。  それが、俺の大切なものを護ることに繋がるから。  舞香、お前は俺の全て。  幸薄の彼女を俺が満たすと豪語していたが、  実際は、俺が彼女に幸せにしてもらっている。  舞香、お前はお前の望むまま生きればいい。  俺は、舞香の世界を傍で護っていくから。  だから、俺の横でずっと笑っていてほしい。 「舞香」  俺が名を呼ぶと、彼女はいつも可愛らしく微笑む。  ああ、幸せだ。  この上なく、文句なく。  これからも、この笑顔を護る。  それが、俺の世界を護ることに繋がるのだから。 「舞香」 「はい、慧悟さん。何ですか?」 「舞香、お前のお陰で幸せだ。ありがとう」 「いいえ、慧悟さん。あなたのお陰で私も幸せですよ」 「ぼくもー」  慧輔が飛び込んできて、家族団子が出来上がった。  こうして慧悟たちの生活は続いていく。  舞香を中心に忙しなく。  舞香と慧悟の世界は、  二人が願った通りの、  愛に溢れる、幸せな世界になった。  ー 傷だらけの小鳥 終幕 ー  → → →
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