羨望と憎悪

17/29
252人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
加奈子は鼻水が垂れてきたことに気付き、鼻を拭った時にようやく自分が泣いていることに気付いた。そして両手で顔を覆い、涙を拭った。 違う…そう言いたいけれど、今の加奈子の涙が野本の言葉を肯定している。何を言っても嘘になる。 加奈子は涙を拭いながら、息を吐いた。 「あなたが…そう思ったの?」 野本に訊くと、野本は首を横に振った。 「ほとんどは彩香が日記に書いていました」 「あの子が?あの子が勤めていた期間は短かったはずよ?そこまで考えられるとは思えないけど……」 野本は視線を伏せ、捜査報告書に目を落とす。 「気付いていましたよ、彩香は。あなたがなぜ自分を嫌うのか……」 加奈子は涙を拭く手を止め、野本を見た。野本は話を続ける。 「彩香が仕事を辞めたのには他にも理由はありますが、その半分を占めていたのはあなたの存在です。あなたは他のカウンセラーたちと違って地井勝に直接意見したり相談したりするほど親交を深めていたそうですね。かつて地井メンタルクリニックに従事していた職員から話を聞いたところ、二人はただならぬ仲だったのではないか…と、噂まであったそうです。だから院長である地井の恋人を敵に回せばクリニックで平穏に過ごすのは無理だ…と察して、彩香への嫌がらせにも加担したんだそうですよ」 ふっと加奈子が笑う。 「馬鹿じゃないの…親子以上に歳の離れた相手……」 そう口にした時、偶然、野本の手元にある捜査資料が視界に入った。 そしてまた、ふっと笑う。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!