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俺の恋が巻き起こした結末①
思春期真っ盛りの中二の夏。
隣りの席に座るあの子に恋をした。
自覚したのは、あの子が俺以外の男と楽しそうに喋っているのを見て、腹が立つたような切ないような、何とも言えない複雑な気持ちが込み上げた時だった。
ああ、コレが嫉妬か。
遅い初恋。
戸惑いとむず痒さ。
それまで普通に接していたあの子への態度が、普通ってなんだっけ、どうしていたっけ、なんて訳の分からない思考に陥入りながら、必死で平静を取り繕うようになる。
会話が弾めば嬉しい。
笑顔になれば可愛いくて胸を締め付けられた。
あの子が隣りにいるだけで満たされる万能感に酔いしれる。
けれど俺たちはカレカノじゃない。
ただのクラスメイト。
くじ引きで決まったから隣りにいるだけで、あの子の意思で俺の隣りにいるわけじゃない。
埋まらない距離。
こんなに近くにいるのに、眩しいほど遠くて。
我慢出来なかった。
ほぼ勢いだったと思う。
何を言ったか記憶も曖昧だけど、あの子がはにかみながら受け入れたのを覚えている。
天にも昇る気持ちとは、こういうことを言うんだと初めて知った。
俺って最強かもしれないと、根拠もないのに確信したりした。
健全な男だから欲求はある。
触れたい。
抱き締めたい。
キスをしたい。
勿論、それ以上も。
カレカノになったんだ。
いいよな?
なんて妄想を膨らませていたけれど、男っていうのは案外小心者だし臆病なんだ。
嫌われたくない。
タイミングが分からない。
カッコ悪いところなんて見せたくない。
あの子の前で完璧であろうとすればするほど、意識し過ぎてギクシャクしてしまう。
欲求はあれど隠し隠し、騙し騙し、拷問のような毎日を送っていれば。
私が練習代になってあげるよ。
と、あの子の前に隣りの席だった女に声をかけられたんだ。
バカじゃね?
練習ってなんだよ。
内心ドギマギしていた。
それから連想されるものが駆け巡り、動揺を悟られたくなくて軽くあしらうも、女は余裕な笑みを崩さない。
慣れって大事よ。
無作法な男はモテないし飽きられるんだから。
ガツンと頭を殴られた気がした。
心の内部にひっそり押し込んでいた怯えを抉り出すひと言。
飽きられる。飽きられる。飽きられる。
やっぱり上手くやらないと俺、あの子に捨てられるのかよ?!
まさか、そんな事はない。
あの子はそんな子じゃない。
否定したいのに、何もかも初めての俺は自信がなくて。あの子と同じ女が言うことだからそうかもしれないと、思ってしまったんだ。
あの子に隠れてするレッスン。
慣れる為に、上手くなる為に、飽きられない為に、あの子以外の女を抱き締めキスをする。
フレンチキス。
ディープキス。
色んな舌使いを教わった。
女は慣れていたし、俺もあの子じゃないから変にカッコ付けなくていい。
言われるがまま、何度も繰り返し、いつしかそれがキス以上の触れ合いに発展するのに、そう時間はかからなかった。
思春期の欲は素直だ。
素直で制御不能。
好きじゃなくても反応する部分は反応するし、興奮したら知識に頼ってでも先を求めてしまう。
女の部屋で。俺の部屋で。
練習と言いながら欲に溺れた。
慣れてきたら女の言う通り余裕が出て来て、スリルを求めて学校でしたりした。
放課後。
誰もいない教室。
クラスメイトが真面目に授業を受ける机に女を押し倒し、制服を捲り上げる。
手に余る豊満な胸に顔を埋め、背徳感やいつも以上に興奮するシチュエーションに夢中になった。
この行為が破滅を招くことも知らずに。
別れよう。
それは突然で、唐突で、理解するのに数分を要したと思う。
冷たいあの子の顔が怖い。
笑顔なんて全然浮かべていない。
嘘だ。
聞き間違いだ。
どうして、なんで、と言う言葉は、次に続いた一撃で消え去った。
見たの。
何を、なんて聞けない。
聞かなくても分かる。
あの子の綺麗な目に盛り上がる涙。
ポロポロ、零れ落ちる雫。
俺は動けなかった。
口どころか身体も心も。
私のことが嫌になったなら言ってくれたら良かったのに。言わずに見せつけるなんて酷いよ。
違う。
違う違う違う違う違うんだ!!
あれはそうじゃない。
あれはただの練習で……っ!
とにかく俺が好きなのはお前なんだよ!!
言っても言ってもあの子は分かってくれない。
言えば言うほど、どんどんあの子は遠去かる。
それでも言うしかなかった。
男の妙な自尊心も、隠したかった本音も弱さも曝け出したのに。
練習ってなに。
慣れってなんなの。
私はそんなの望んでいなかった。
カッコ悪いとか、初めてとか、それを含めて私は貴方が好きだったのに。
誤魔化しや嘘なんて要らない。
他の女で試すような貴方は要らない。
好きじゃないのに、そういう事が出来る不誠実は彼女にも失礼だよ。
軽蔑。
それに尽きる眼差しで、あの子は俺の傍をすり抜ける。
目の前が真っ暗になった。
あの子が俺を捨てていく。
初恋が散っていく。
そうならない為に策を練ったのに、最善だと思った行動が俺を地獄に落としている。
どこで間違えた?
何が間違いだった?
問いかける、問いかける、自分自身に。
答えは始めから出ていた。
俺が俺のチンケなプライドを守りたかったが為にこうなったのだ。
それだけならまだしも、欲に慣れ、溺れ、大人になったつもりで、気が大きくなり、バカバカしい刺激を求め、誰にバレるかも知れない公共の場で行った下劣な行為。
吐き気が込み上げる。
よくもあんな事が出来たものだ。
最愛を失ったことで正気を取り戻すなんて、本当に俺は落ちるとこまで落ちていたらしい。
あの純粋な恋心を汚したのは、壊したのは、踏みにじったのは、他でもない俺自身。
女の申し出を跳ね除けなかったのも、受け入れたのも、もしかしたら心のどこかでそういう欲求があったのかもしれない。
自分で自分が分からなくなった。
あの子に捨てられて自暴自棄になっているのか、元からそうなのか、それすらも分からなかった。
若気の至り。
と済ますには、果てない喪失感。
これが埋まる日はやって来ないだろう。
過ちは消えない烙印となる。
ずっとずっと、生きている限り。
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