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私の恋が巻き起こした結末①
出会うのが早ければ。
そう、何度も思ったことがある。
人目を気にして会うたびに。
数時間の逢瀬で慌ただしく抱き合うたびに。
去って行く背を黙って見送るたびに。
もう少し。
あとちょっとだけ。
引き止める声は出せなかった。
だって私は二番手の女。
困らせるだけならまだしも、面倒だと思われたらこの関係は簡単に終わることを知っている。
彼の居場所は私じゃない。
ほんの少し身体を休める休憩所になれても住処にはなれなかった。
彼には彼の帰る場所がある。
彼自身が望んだ、手に入れた、温かで優しくて幸せに溢れた家庭という居場所が。
分かっていました。
知っていました。
それでも彼の薬指に光るシルバーのリングは、私に何の戒めにもならなくて。
好きだから。
諦めきれないから。
一時の情や戯れでもいいから欲しかった。
偽りでも仮初でも、自らを都合の良い立場に貶めたとしても、ただただ、彼が欲しかったんです。
感情のまま誘惑した。
男の欲を刺激する下劣なやり方で。
最初は断られていたけれど、女を前面に押し出した一途なアピールは、彼の頑なな心をこじ開けることに成功する。
嬉しかった。
想いが叶って歓喜した。
情熱的な口付け。
甘い睦言。
彼がくれる全部に夢中になったけれど。
離婚する気はない。
浮かれた私に冷や水のようにしっかりと釘を刺すのは忘れなかった。
彼は遊びで私は本気。
決して交わらない気持ちを、未来のない関係性を、身体を重ねることで私は満たされた気になっていた。
彼は私を求めてくれている。
でもそれは、ただの強がりで、自己満足で、現実逃避。
彼は私のものにはならない。
いくら好きでも、応えてくれても、彼には真に愛を捧げた妻がいた。
虚しい。寂しい。悔しい。憎らしい。
彼に愛される妻が羨ましかった。
妬ましいのに、いいえ、妬ましいからこそ優位に立とうと必死だったのかもしれません。
私の中に芽吹いた悪意。
大丈夫。
匂わせるだけ。
肯定も否定もしない卑怯さで、私は彼の妻に私の存在を仄めかしたのだ。
深夜の電話。メール。
出なくても良かった。
折り返しがなくても返信がなくても良かったんです。
彼が家にいる時を狙って、たわいもないことを連絡する女、してくる女に対して、彼の妻が何かしら疑念を抱けばいい。
彼の裏切りに気付かない妻と、裏切ってるくせに妻を優先する彼に意趣返しをしたのだ。
少しでも私の味わっている惨めな気持ちを知らしめたくて。分からせたくて。
今思えば、なんて傲慢だったのでしょう。
どう考えても、浅ましくも既婚者に擦り寄った私に非があるのに、まるで自分だけが被害者になったつもりで彼の妻を傷付けて、大好きな彼をも傷付けたのです。
結果が出るのは早かった。
私は彼に捨てられた。
なりたくないと思っていた面倒な女に成り下がっていたので当然です。
私は自分が仕出かした悪意によって愛を失いました。いいえ、違いますね。元から愛などなかったのかもしれません。
私は我が身の気持ちばかり考えていました。
彼の背景を知っていながら彼の幸せを壊す役割を嬉々として担っていたのだから。
愛という名を振り翳し、愛を言い訳にして。
本当に好きなら彼のことを一番に考えなければなりませんでした。
私の想いを知って欲しいなど、振り向いて欲しいなど、一夜だけでもいいなどと、彼の立場を思えば望んではいけなかったのです。
好きになったら仕方ない。
理性に感情は止めれない。
という意見もあるでしょう。
私もそう思います。
彼女がいても、結婚していても、そんな相手に惹かれてしまうこともある。
惹かれた気持ちが膨れ上がって略奪したくなる時もあるでしょう。
でも間違ってはいけません。
独りよがりになってはいけません。
きちんと相手や相手の大切な人のことも気にかけないと、とんでもないことになることを知って欲しい。
彼の妻はその後自殺しました。
不倫を苦にした自殺ということを後から知った私は、その時になって初めて、自分の犯した過ち、罪の重さを実感し、戦慄したのを覚えています。
違う。違う。
これは何かの間違いだ。
もしくは悪い夢。
現実じゃない。
現実であるはずがない。
だってそうじゃなきゃ、私は。彼は。
彼の妻は彼を深く愛していたのでしょう。
信頼も信用もしていたのでしょう。
心の全てを明け渡していたのかもしれません。
この世で絶対的に自分の味方だと思っていた人の裏切り。
信じていたからこそ、その絶望は深く、生きる気力を根こそぎ奪う衝撃だったに違いありません。
原因となった諸悪の根源は私です。
私が彼を好きにならなければ。
いいえ、私がいなければ良かったのです。
皆している。
私だけじゃない。
たかが不倫。
たかが浮気。
たかが遊び。
主観はそれぞれかもしれません。
でも想いの強さや弱さ、深さや浅さではなく、私の恋が、不倫が、悪意が、この最低最悪な結果を産んだのです。
私が彼の妻を死に追いやりました。
誰も幸せになりませんでした。
私達に関わる大勢の方が不幸になりました。
恋で人は狂うのです。
愛で人は死ぬこともあるのです。
冗談でも大げさでもなく、一つの事実として、皆様方の胸に留めてくれたら幸いです。
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