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坂巻は、本当に熱があがったみたいだった。
ほっぺたがどんどん赤くなってる気がするし、目はもう半分しか開いてないし、焦点も定まってないし、肩で息をしてる。
「……あの、具合悪いのにごめん。もう寝て」
「真野は……帰る……? じゃ、送る」
そう言って立ち上がろうとしたけど、ふらふらだ。私はすかさず体全体でささえた。
距離がすごく近くなって、感じる身体の重みに、胸が苦しくなったのも一瞬だった。
抱きしめられるだろうとばかり思っていた太い腕がだらりと落ちる。
「え、え、さかまきっ? 大丈夫?」
私は驚いておばさんを呼んだ。
*
「ったく、情けない男だねぇ!」
車を運転する坂巻のお母さんは、がははと低い声で笑う。
後ろの座席で私たちは並んで座って、坂巻は私に力の入らない体を預けてきて目を閉じている。車に乗る前も朦朧としてたし、今は寝てるのかもしれない。ベッドから出たままのスウェットの上下がなんかかわいい。
いつの間にか手が握られてる。やけどするかと思うくらい熱い手で私の手を握ってる。ぎゅっと、全然、力弱くない。
「あの、私を駅に送ってもらう前に、坂巻君を病院に連れていってあげた方が……」
「……俺が……送る」
うわごとのように坂巻が荒い息で言う。
「まだバカ言ってるよ。心配しなさんな、駅寄っても大して時間変わんないから」
坂巻の熱を測ったら40度を超えていた。
帰ろうとした私は、サドルに跨っていない状態でさえお尻が痛くて、というかもう歩き方も変で、どう考えても自転車で帰るなんて無理で、夕方で日も暮れてきたし、電車でA市まで帰ることになった。
坂巻が元気になり次第、私の自転車に乗ってA市まで運んでくれる予定だ。
今、車のかすかな振動でもお尻が痛い。
帰りの電車は座らず立って帰ろうと思ってるくらい。
「……逆に迷惑かけちゃって申し訳ないです」
「ぜーんぜんよ。ま、嶺王は、こんな時にぶっ倒れて無念だろうけどね。もしかしたら今日のことで覚えてないこともあるかも。そうなりゃ、この子マジ泣きだろうね」
「その時は、もう一回言います……」
「いやいや、超ドッキリ仕掛けてやんなよ! 号泣するくらいの」
お母さん、ドSなんだな……。私は、冗談でもこれ以上坂巻につらい思いさせたくないよ。
「まぁ、こんなやつだけどさ、よかったらしばらくつきあってやってよ」
坂巻のお母さんは急に優しい声になった。
どエスだけど、子供のこと愛してるんだなって、こんなガキの私でもわかるくらいの。
「はい」
だから私も心を込めて頷いた。
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