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「ゴム?」
って、髪の毛の? なんで巧が。
「だから、二人がそういう関係なんだって……思って」
「……そういう関係って? え、ゴムって……まさか、巧。……あ、あの時、コンビニに買い忘れたって戻ったときに……!?」
コンドームを買ったっていうの?
それを坂巻がレジしたの?
坂巻の顔も赤いけど、私も思わず赤面。
まじか。巧のバカ、アホ。許さん!
実は、さっき坂巻の家に来る前に巧に電話して、今日無視したこと謝った。
また小学校の時の二の舞になると思ったから。
私が変わらなきゃって思ったから。抱きしめられたあの事実に、触れたくはなかったけど、ちゃんと向き合って、巧が弁解なり謝罪なり今朝、私に話そうとした何かを聞かなきゃって思ったから。
巧は『冗談のつもりだった』って『でもふざけすぎた』って謝ってくれて(謝ってくれたからって許せることでもないけど)、なんなら私と坂巻が進展するために、あえて当て馬ポジになってあげたとか恩着せがましく言ってたくせに! そんな小細工までしてたなんて聞いてない!
「……坂巻はそうだと思ったの? 付き合ってるって」
うつむいてた坂巻は、握ってた手に力を込めて、
「……たくみのインスタとか見ててそうだろうなとは」
「なに、巧インスタに何あげてんの? 違うよ! 付き合ってない。私、付き合ったことないもん、誰とも……」
「誰とも……」
坂巻は繰り返すように呟いた。
「うん。そもそも、好きな人だってずっといないし。恋愛対象の男子なんて、いなかった。……小学校の時、好きだった人以上に、好きになれる人なんて、全然いなくて……」
「小学校……」
「うん。六年生の夏、一緒に図書委員だった男子」
「……って俺?」
私はうなずく。
「両想いだったんだね、私たち」
「……マジか、そっか、あんとき、真野も俺のこと……。ごめん、なのに俺、最低で……ごめん」
坂巻がくずれるように頭を下げて、土下座したみたいな形になった。
「ちょ、そんな謝らないで……」
慌てて前に進み出て体を起こすと、予想外に近くに坂巻の顔があった。
赤いサラサラの髪の間から、熱のせいかとろんとした瞳がのぞいていて、それはすごく薄くて茶色い。はじめて見る距離だからわかる。
「……今は? 私の片思い?」
「……へ? 片思い……?」
ああ、瞳って本当に揺れるんだ。
「……誰に、片思い、してんの?」
「おなじ男子。六年の時に好きだったのと、同じ」
「って、え、俺!?」
うん、と私が頷く。
心臓がどきどきばくばくして、時計の秒針が聞こえてきそうな静けさだったのに、
「やべ、熱上がってきた、かも」
坂巻の身体が今度はふにゃふにゃと後ろに倒れる。
「え! ちょっと、大丈夫?」
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