川隔てて

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川隔てて

元バイト先の玄関にはいつも盛り塩があった。 千客万来の為なのだろうと思いながらも、客の来ない暇つぶしに、同じくバイトの主婦の人に盛り塩の理由を聞いた。 だが、期待せず聞いたのに、思わぬ返事が返って来た。 「Aさんがやってるんだよ。川から霊が流れて来て(玄関から)入って来て、奥(出口)から出て行くから、その為に毎朝やっているんだって」 そんな感じの答えが返って来た。 確かに川の上流には、霊園が在る。 だが、川からは少し距離がある。 ——少し考えて思い出す。 下流なら川の脇に霊園がある。 だが、わざわざ川を遡って何しに来るのか? それに、川を流れて来るという表現とは合わない。川を登って来るだ。 きっと、よくある自称霊能力者のあれだろうと思った。 あれというのは、はっきり言ってしまうと、デタラメや思い込みだ。 なので、そこまで気にも留めずに忘れてしまった。 それから、約1年後に地元の施設で、白骨死体が見つかったというニュースがあった。 事件性はないという事だった。 多分、忍び込んで生活していたホームレスだろう。 興味本位で、その施設を検索してみた。 すると、前のバイト先の近くだった。 地図で見ると、川を隔てて、ほぼ真正面である。 川を隔てて……。 そこで、はっと1年前の雑談を思い出した。 ——霊が川から流れて来る。 もし、その身元不明の人の霊が、Aさんの言っていた霊なら、どうしてバイト先まで川を渡って来るのか? 怪談的に考えると、存在を気付いて欲しかったとか、近くに寺や霊園があるので弔って欲しかった。そんな感じだろう。 霊は水に溶けるとというから、川を渡りながら、流されてしまうのだろうか?
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