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冷徹社長と呼ばれるくらいに近寄りがたくて“住む世界が違う人”とばかりおもっていたけれど、
この人も誰かを大切に思う気持ちがある、ひとりの人間なんだ。
そう思うと、目の前にいる彼が急に近く感じた。
「話しづらいことを話して下さって、ありがとうございます」
「……ああ。
改めて、返事はすぐでなくていい。
答えが決まったら連絡してくれ。
裏に書いてあるのが個人用の番号だ」
「分かりました……」
早川社長が差し出した名刺を受け取る。
互いの利益のためだけの契約結婚。
考えてもなかったことがこの身に降りかかってきて、未だ戸惑う気持ちがほとんどだ。
でも少なくとも、この場ですぐに「NO」と答えを出すような拒否感は生まれていなかった。
「……いい返事を期待しているよ」
早川社長はそう言って微かに微笑んだのだった。
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