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都合のいい女なんて
きっと興味がない。
興味を引く方法は、これしかない。
これしか、思いつかない。
いつか気づいてくれるだろうか。気づいたら、怒ってくれるだろうか。泣いてくれるだろうか。それとも、呆れたように笑うだろうか。
そうなったら、嬉しいけれど。
「なに、どうしたの?」
部屋の中にいる、絹のような肌の少女が、上目がちでそう聞く。
それをそっと抱き寄せて、なんでもないと嘘を吐いた。
「…そう」
LINEの通知はやっぱり来ない。非通知にしている数名の子からのメッセージはたまっているのに、通知を許可した彼女からは、やっぱり来ないのだ。
「ねえ、今日は朝まで一緒にいたい」
小さな声でそっと言う彼女の顎を引く。
少しだけ口元が綻んだ。
都合の良い女。
この子は俺のことを好きじゃないから楽。
元彼の未練を忘れるために関わっているんだから、楽。
ふっと息が漏れると、それは彼女の肌に吸い込まれるように消えていった。
一
彼は知らない。
都合の良い女なんていないということ。
彼はわかってない。
きっと何も、見えてない。
彼の寝顔に、カーテンから僅かな太陽の光が差し込んでいる。
どうしてそんなに悲しそうな顔をして寝ているのか、私には分かる。
きっと、あなたの好きな人には、分かってもらえないんだろうけど。
『その気持ち、全部、私が受け止められるよ。受け止めてあげるよ。』
こんなこと言っても、彼は私になびいたりしない。
それも全部、分かっている。
彼の頬にそっと手を触れた。
世の中に都合のいい女なんていない。
そんな風な振りをしていれば、嫌われることはないから。ずっと一緒にいられるから。
自分が「お気に入り」であることも全部、分かっているの。
分かっているけれど────
伸ばした手を頬から戻し、ベッドから立ち上がる。
少し揺れ動く彼の長いまつ毛を見つめてから、床に置いてある服に手を伸ばした。
私の肌は、まだ人の温度が残っている。
私だけを見て欲しいなんて思わないから、願わないから、その美しい瞳で、私のことをしっかりと真っ直ぐ見つめて欲しい。
そんな私の気持ちさえも、彼は何も見えていない。
「あれ、起きてたんだ」
「うん。おはよ」
「どうかした?」
「…報われないよね。私も君もさ」
彼は誤魔化すように笑ってから、口を開いて言った。
「元彼のこと、少しは忘れられた?」
やっぱり、彼は、何も分かってない。
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