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潮が満ちてきて、テトラポットの3人が戻ってきた。 堤防に5人で並んで座り、他愛ない話しをしながら沈む夕陽を見ていた。 風が涼しくなって、いつまでここにいられる気がした。 稲垣さんが『この後どうするの?』と聞いてきたら、鈴木さんが慌てて話しに入ってきた。 『ごめん、本当ごめん。 今日はこの後桑田に送ってもらわなといけないんだよ…。 奧さんの実家が桑田の家の近くで…。 荷物があるから電車だとキツいんだよぉ。』 稲垣さんが立ち上がり、腕組みをして鈴木さんを睨んだ。 『既婚者のお前のせいで俺達はチャンスを失う。』 仁王立ちで睨む姿に思わず笑ってしまった。 『鈴木さん以外の4人で連絡先交換しましょう! そして来週あたり、4人で飲みましょうよ! 鈴木さんは奥さんを大事にして下さい!』 倉部さんがそう言って、携帯を取り出した。 鈴木さんが『はーい…。』といじけている間に4人で連絡先を交換した。 『さて…じゃあ帰るかー。』 稲垣さんの声を合図に順々に堤防から下りた。 あたりはだいぶ暗くなっていた。 先に下りた桑田さんが手を差し出してくれた。 『大丈夫だよー。』と言うと、手を取られた。 嫌な感じはしない…どころかちょっとときめいた。 『鈍臭そうだからさ。 つかまっときなよ。』 『鈍臭そうだなんて、ひどいなー。』 あたりまえのように差し出された優しさにドキドキしたことを何となく悟られたくなくて…素直に支えてもらって斜めの壁を駆け下りた。 『ありがとう。 こんなに優しいのにね。 なんで振られたんだろうねぇ。』 こんな軽口も言える距離感になっていた。 桑田さんは『蒸し返すなよぉぉ!』と叫んで、まだ掴んだままでいた私の手をギリギリと締めつけた。 ひとしきりみんなで笑った後、私たちの車まで送ってくれた。 『じゃあ、来週絶対飲もうね!』そう言って稲垣さんは倉部さんとハイタッチしてる。 鈴木さんは少し離れたところで電話していた。 桑田さんは運転席に乗ろうとする私を見て『運転するの?』と驚いていた。 そして本当に心配そうに『気をつけて帰りなよ。』と眉をひそめた。 『そんなに鈍臭そう?』と聞いたら『うん』と即答だった。 『とりあえず家に着いたらグループメールの方でもいいから連絡して。』 『わかった。ありがとうね。』 鈍臭そうは心外だけど、本気の心配が嬉しかった。 私たちは握手をしてさよならした。
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