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駅前の人の往来の中から三つ編みの彼女が現れた。ハッと僕に気がつくと、大きく手を振ってこちらへパタパタと駆けてくる。
厚底のサンダル、白い花柄のワンピース。
背後からやってきた海風に吹かれて翻った裾を慌てて押さえると、彼女はおかしそうにクスクスと笑った。
「おまたせ。電車、来た?」
「ううん。次の電車で来るみたい」
彼女はトン、と駅の壁に背中をつけた。
二人並んで人の往来の向こうに青い海を見る。
「久々だねぇ、湊くん。終業式の日以来。背、伸びた?」
「一ヶ月かそこらじゃ伸びないよ」
「えぇ、そうかなぁ」
彼女は僕の顔を見上げながらぐっと背伸びしてみせた。
「ふふ」
「──ご機嫌だな、瑠璃ちゃんは」
「そう言う湊くんは緊張してるね」
「そう?」
「うん、なんか怖い顔してる」
彼女のすらりとした両手が僕の頬に伸びた。そのまま両頬をつかまれてぐにぐにと左右に引っ張られる。
「いひゃい」
「ふっ、あははは」
彼女──瑠璃ちゃんはひとしきり笑うと、また向こうの海を見据えた。
白のワンピースがひらひらと波打つ。
「楽しみだねぇ」
「……うん」
「ほらもう、また怖い顔に戻ってる」
再び頬に伸びてきた手を今度こそかわしたところで、駅のホームからガタゴトと電車の音が聞こえてきた。
「あっ!」
瑠璃ちゃんが僕の手を引く。
「あの電車じゃない? 航一くんが乗ってるやつ!」
胸がざわめく。
「ほら行こう、湊くん! 二年ぶりだよ、航一くんが帰ってくるの」
彼女に手を引かれるまま改札の前に立った。
電車の中から大きなスーツケースを引いて降りてきた彼は、二年前、僕たちが中学二年生だった頃よりずっと大人びて見えた。
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