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柚希も、
「だから色々とさ…。舞雪ちゃんが整理のために此処に来たのもそうだけど、お寺も整理のために人が来てくれたのは、…悲しいけど、悪いことじゃないよね」
「ただでさえ整理が行き届いていないんだろう?」
「結構ボロボロのお寺だからさ、うちに泊まるってのも無理ないよ。水道電気通ってないもんね、多分」
それは無理だ。
だから今更『忘れてました』なんてことは言えないし、感謝すべき人物であることは確かであろうと見えた。舞雪は悪戯っぽく、
「挨拶しておかねばなるまいな、特に真冬なんかは」
「そうですね。私も、何かお手伝いできることがあるかも知れませんし…それに、明治時代までは、一体だったような神社とお寺ですから」
長らくこの里を見守ってきた二つの神社と寺だ。神仏混淆、そのような時代もあったのだろう。
寺は荒れたとはいえ、それでも祭祀を司る身として、巫女たる真冬は看過できないものがあるのだろう。霧夜は何も言わなかった。ただ、柚希も、真冬も、―――その暖かい義務感の中で動いているのが、羨ましく、そして恨めしかった。
怨念に似た吐息。表情は変えない。ただ舞雪だけが察したらしい。「霧夜?」と問う声に対して、霧夜は感情を胸の奥に引っ込めた。
―――今出てきてはいけない感情だった。
この感情を吐き出すのは、この場所で、一度だけで良いはずだ。
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