神社

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真冬が、 「でも月白のお寺は長いこと無住でした。三郷の人達のお墓や位牌もそこにあるのですが、最近はお葬式も隣町のお寺でやってるような有様で」 「だが流石に真冬らが手を出す訳にもいかぬから、色々と手が回ったのじゃろうな」 「でしょうね。でも初耳でした」 柚希も「私も初耳だったけど、あのお寺整理してくれるならそれでいっか」と呑気である。真冬が 「柚希さんのところのお墓もあそこにあるのではないですか?」 「あったけど、うちは早いうちにお骨皆うちに引き取って、小さくまとめちゃったんだ。私が東京行ったらお母さんも来てちょっと向こうあたりで色々探そうかなって」 「なるほど…」 「真冬の家は奥津城(おくつき)じゃしな」 舞雪の言葉に、真冬は「その通りです」と首肯。霧夜の視線だけの問いかけに真冬はつらつらと答えてくれる。 「神道のお墓です。この裏山の奥にあるんですけど、…この神社はギリギリ水が浸かるか浸からないんですが、うちのお墓は多分大丈夫なんです」 「…ギリギリだが、この三郷神社は引き払うことになるのか」 「その通りです」 真冬は頷いた。白い壁を仰ぐ。視線はその向こうに、あるはずの山を見ていた。 「山のどこかを平らにして、新しい神社を建てようという計画自体は、父が中心にしてやっているのですが、規模は…」 「…それに、誰が管理するのかという問題と、ここから離散した人が再び集えるのかという問題とがある訳か」 「その通りです」 真冬は肯定。柚希も複雑な顔だった。 「隣町に移転地は準備されてるんだけどさ…。都市部に出たいって人もいるし、うちも廃業だし、私も大学行かなきゃだし、本当は介護施設にいなきゃならないレベルのおじいちゃんも相当無理してここに留まってるから、もうなんか色々限界だよね、正直」 広壮な神社であるが、維持管理はもう余程無理をしているのだろう。そうと知れた。 霧夜は舞雪を伺う。悲しそうな微笑みだけがあった。
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