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「ごめんくださーい」と呼ぶ声がしたのは突如であった。「あッ」と声を上げて真冬が立ち上がる。
「すっかり忘れてました、すみません先生!!」
バタバタと外に駆けだしていく真冬。柚希もご機嫌そうに立ち上がった。
「あ、緋那ちゃん先生の声じゃん」
「緋那か」
「あれ、舞雪ちゃん、緋那ちゃん先生知ってるの?」
「色々あって仲良うなったのじゃ、向こうから押しかけてきて大変だったぞ」
ニヤニヤ笑っている。柚希は「あー、緋那ちゃん先生ならやりそう」なんて笑顔である。一方で霧夜は透明な表情だった。
―――人ならざる霊気の気配を感じていたからだった。
柚希と舞雪が外に出ていったので、霧夜も自然とその後を追う。境内の白い雪景色の中に、季節外れの日傘を指して、一人の白衣の女性が傲然と笑っていた。
女医さんであるらしかった。
「ごめんよ真冬ちゃん、お父さんのお薬すっかり忘れてたわ」
「すみません、父が向こうに入院してるのに、退院した後のお薬までお気遣いして貰って」
「いいってことよ、これが仕事だからね」
手渡されるお薬は、どうやらここの宮司のものであるらしい。
緋那、と呼ばれた女医さんは―――一見して本当に少女であるが、俺より多分年上だろうと霧夜は思う。色素の薄い髪、煌めく紅眼、そしてその身体から漂わせる人外の霊気―――明らかに只者ではないと知れた。
だが霧夜だからそう判断したのであって、そうでなければ、制服を着てしまえばJKにしか見えないだろう、そんなナリである。が、白衣を翻して不敵に笑えば、それは女医さん以外の何者でもない。そう人に納得させる、不思議な雰囲気を漂わせていた。
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