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「私のどこに、グルス好みの場所があるのさ。奥様のように、グルスさんを受け入れられるような体でもないのに。体格が違いすぎるって」
「そこなんだよねえ」
トモは、ルビィのつま先から頭のてっぺんまでじっくり眺めた。屈強なグルスに対して、片手で担がれる華奢なルビィ。
どう見ても、性的対象にはなり得ない。
「ほら、たまにはこってりよりも素麵が食べたい、みたいな?プラモデルでも嫉妬する人は嫉妬するじゃん?性欲から解放されたい時もあるし」
「……」
(げっ、やっちまった)
こういう時の男目線のフォローは無意味。『どうだろう』と濁すのが正解。
「すみませんでしたーっ」
トモの判断は早い。国で統一された案内所で働いてきたトモは、マニュアル完璧のお辞儀で謝罪した。
(謝罪のコツは、時間を空けないこと、余計なことを言わないことっ。これぞ社会人のマナーっ)
「あのさ、グルスさんを一人にして大丈夫なの?」
どうでもいいルビィは謝罪を無視。肩透かしを食らったトモは、素っ頓狂な声を出した。
「はえっ?ああっ、大丈夫大丈夫。俺、スイッチ置いてきたから」
「あー、あれね。ガチャガチャで見たことある、手のひらサイズの緊急ボタン」
四角い鉄の下に黄色と黒のストライブ、その上に赤いボタン。一度は目にしたことのある、押してはいけないボタンを、トモは奥様に見つからないよう、ベッド下に設置してきたのだ。
「あれは『魔法具』。こっちに来た人、あ、地球人のほうがわかりやすい?」
「どっちでもいいけど」
オタク心と同窓会的感情が疼いたトモは、しょんぽり。
「いつのことか不明なんだけどさ、チートの魔法使いとチートの錬金術師が魔法具を創りながら旅をしたらしい。その人たちRPG好きだったの。この世界で違法な魔法具を、各地に隠したんだよね」
「ふーん」
「えっ、それだけ?ワクワクしない?」
「RPGでしょ?めんどくさい。ゲームに時間使いたくない」
「わー。パズルゲーム派?じゃあ、つまらないかも。この世界では古代文字って言われているんだけど、俺たちは読める文字でさ。石碑や地図を捜して、謎を解いて魔法具を見つけると、説明書も一緒に入ってるんだよね」
「ふーん」
「この世界で生まれた人は使えないの。俺が手に入れたのは、『緊急時は二度押しで』っていう、魔法レベル低いやつ。敵意を持ったやつが現れると、なんかしてくれるみたい。一度も動いたことないけど」
「信頼できるの?」
「できるって。だって、魔法具と同じようにレシピも散らばってるんだけど、『翻訳クッキー』は成功しただろ?」
ルビィはあの時のスティッククッキーを思い出す。
「あ」
「だろ?言っとくけど、違法だからな」
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