ひとめぼれではありません

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「吸血鬼……にしては血を寄越せとも言われませんでしたし……。後は……」  ラファエルはシーツの上へと落ちていたタオルを拾い上げる。けれどもギルベルトは横を向いたままで、すぐに額に戻すことはできそうになかった。  仕方なくラファエルはギルベルトの首筋をタオルで拭う。本当は再度身体も拭いてやりたかったが、ギルベルトがぎゅっと身を丸くしているため無理強いはしないことにした。 「……子供みたいな人ですね」  発熱のせいか幾分しんどそうではあるものの、寝顔もなんだかあどけない。目元にかかる前髪が擽ったそうなのもなんだか微笑ましい。ラファエルは軽くそれを払うと、うっすら汗の浮く額をタオルで押さえた。 「ん……」 「……!」  刹那、ギルベルトは身動ぎ、まるでそれ以上触られたくないように寝返りを打った。くるりと背を向けられ、思わずラファエルは瞠目する。今度こそ布団をかけ直そうと、伸ばしかけていた手も止まってしまった。 「……そう、なんですか」  思わず視線が釘付けになる。その先でゆらりと揺れるものがある。  長めの寝衣の裾から、覗いていたのは先がハート型になった黒い尻尾だった。意図的に消されていたものが、羽と同様に出てしまったらしい。 「なるほど……」  ラファエルは確信した。  相変わらず直感は働かない。けれども、この尻尾を見れば自ずと知れる。  もともと混血が多い時代だとはいえ、こうまで本能が働かない理由はわからないが、少なくとも答えの方はわかってしまった。  目の前の男は、間違いなく悪魔だった。
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