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鏑木に促され、輝たちは部屋の中に入った。周りには座り心地の良さそうなソファや、絶対にすぐに眠れそうなベッド等、見るからに高そうなものがたくさん並べられていた。
秘書も中に入ろうとしたが、その彼を結希が制した。
「すみません。鏑木さんと私たちだけにしていただけますか?鏑木さんだけに伺いたいことがあるので」
秘書は鏑木の方を見た。すると彼は、渋々ながらも頷いた。
「分かりました。僕はここで」
丁寧に頭を下げたあと、一瞬だけ結希を睨みつけて秘書は部屋を出ていった。
「警戒されてるなぁ」
「警察はそういった目をされることが多いのでは?」
苦笑いして言う結希に、鏑木はソファを手で示しながら訊いた。
「かもしれませんね。私たちは警察ではないので分かりませんが」
身を明かしていいのかと、輝は結希の隣に座りながら驚いた。向かいに座る鏑木も、驚いた表情をしていた。
「警察の方ではないのですか?」
「すみません。ここまでしないと会ってもらえないと思ったので嘘つきました。本当はこういう者です」
結希は深く頭を下げたあと、コートのポケットから名刺を取り出す。そしてそれを鏑木に手渡した。
「探偵ですか……」
「はい。私は探偵の新藤結希で、こちらは助手の高谷輝です」
助手になる気はないと思っていた輝だが、さらっと言われたその肩書きを気に入り始めていた。
「……そうですか。それで探偵の方が私に何の用で?」
「分かっているはずです。あなたの婚約者、川野真奈さんが刺されて亡くなった事件についてです」
その言葉に、鏑木は目をつぶってソファにもたれた。
「鏑木さん、あなたが川野さんを殺していてもいなくても、私たちはあなたの味方です。……というか、あなたが川野さんを殺しましたよね?」
いきなり直球の質問だ。どう答えるだろうと鏑木を見ると、彼はゆっくり目を開けて前のめりになった。
「君たちは、私を警察に突き出すつもりでここに来たわけではないのか?」
「違います。寧ろあなたを守るつもりで来ました。……でもそれは、全部あなたの答え方によりますけど。そこでもう一度訊きます。川野さんを殺したのはあなたですよね?」
鏑木は天井を見て、窓の方を向いた。そして輝、結希の順に見ると、小さく息を吐いた。
「ああそうだ。真奈を殺したのは私だ。……でも彼女を殺すつもりはなかったんだ」
輝たちが耳を澄まさないと聞こえないぐらいの小さな声で認めると、鏑木は頭を抱えて動かなくなった。
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