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「あ、お兄さんなんですか?」  驚きで輝は思わず声を出してしまった。そのことで結希に咎められるのではないかと隣を見ると、彼女も驚きながらも納得した表情をしていた。 「はい。私と秘書の宏哉が兄弟だということは、お二人もご存じなかったのですね」 「そこまで調べなかったので。……そうですか、兄弟でしたか」  さっき結希が言っていたことを考えると、兄を陥れるつもりで、弟がこんな策を考えたということになってしまう。 「なんで兄を陥れるようなことを……」  輝は思ったことを口に出していた。 「もしかしたら、兄の会社ごと奪おうとしているのかもね。嫌っているのに秘書をしているってことは、そういうことだと思うよ」  結希の考えに、鏑木は力なく笑った。 「鏑木さん。あなたは弟の宏哉さんを庇っていましたが、彼は全く逆であなたを陥れようとしています。……私は、あなたが捕まることは絶対にあってはならないことだと思っています。なので川野さんとあの日、何があったのか教えてくれませんか?絶対に救いますから」  鏑木は顔を上げて結希を見る。 「何故そこまで私の味方を……?」 「……私はただ、捕まるべき人が捕まらずに過ごすことが許せないだけです」  輝には、結希が鏑木だけではなく、他の人物も思い浮かべながら話しているように見えた。  鏑木はしばらく結希を見つめた後、小さく息を吐いた。そしてついにあの日何があったのか話し始めた。 「あの日は、真奈が私の家に来る日でした。久しぶりにお互い休みで、私の家でゆっくり過ごそうという約束をしました。……実はその日、私は真奈にプロポーズをしようと考えていました」  だから婚約指輪があったのかと、輝は納得した。 「私が真奈を迎え入れる準備をしていると、インターホンが鳴りました。真奈が『いつもより早く着いた』と言うので急いで玄関に向かって鍵を開けると、彼女は急に刃物を振り上げてきました」 「急にですか?言い合いになった後とかではなく?」 「えぇ。私が玄関を開けたと同時でした」 「その際、川野さんは何か言いませんでしたか?例えば……、『裏切り者!』みたいな」 「そうですね……。あ、確か『浮気してたなんて最低!』のようなことを言っていたような」  浮気?千紘情報では、女性の影はないと言っていたはずだが。 「ですが私は浮気なんてしていません。私は真奈を心から愛していましたから」
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