第四話

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第四話

 寺子屋の中は狭かった。玄関から入り、真っ直ぐ廊下を進む。左側に戸がある。その戸を開けると、教室がある。教室の前の方には教卓があり、妖怪の子どもたちは座していた。子どもたちはわあっと大声を出した。 「誰だろう」 「先生が言ってた人間だ!」 「本当に来たね」  などと噂話をする子どもたち。先生が今日見学する人達だと説明をする。桃花達は教室の後ろの方で見学することになった。  今日は習字で「書き」の授業をしていた。子どもたちは楽しそうに文字を書いてる。妖怪たちが使う文字だ。 「人間さんも書く?」  桃花は問われ、返事をする。 「ちょっとだけね」  桃花は子どもから筆を借り、「桃」と書いた。 「楽しいね」 「うん」  桃花と妖怪の子どもは言い合った。桜子も桃花と同じように子どもと話し合っていた。しかし梅葉と黒鉄は後ろの方で何やら話をしていた。  その時、先生の自室がある方から大きな音がした。黒鉄と萩作は教室から飛び出す。皆、いたずらタヌキだと本能的に感じていた。  萩作は先生の自室に向かう。黒鉄は玄関から出た。 「ゲゲ、人間だ」  いたずらタヌキたちも本能的に感じていたらしい。先生の自室の外側にある木材に一匹が躓いたのである。その為、大きな音がしたのだ。タヌキたちは逃げようとしたが、すぐ後ろには黒鉄がいた。 「なんか大きな鎌を持った奴がいるでぇ兄貴。どうするよ。」 「今日はとにかく撤退だべ」 「待て、悪さをしないと言うならここを通すぞ。」と黒鉄。 「ええ、やめますとも、だから道を通してくださいな」  タヌキたちは懇願した。黒鉄は通そうとした。 だが、タヌキたちは走りながら、 「ざまあみろ、いたずらやめられるかよ」とタヌキ。 「やっぱりか」と黒鉄は落胆する。  そして黒鉄は大きく飛んでタヌキたちの近くで大鎌を振り回す。タヌキたちは驚き、逃げ惑う。 「待ちな」 とはたきを振り回す少女。梅葉もやって来たのである。 「よくもうちの漬物を盗んだわね」  タヌキたちはくーんと鳴く。そろそろ体力の限界だろう。黒鉄は大鎌を振り回すのをやめた。いたずらタヌキたちもとうとう懲りたようで謝りながら退散していったのである。 「梅葉さん大丈夫か」 「ええ、懲らしめ足りないぐらいよ」  先生の部屋の窓から萩作が顔を覗かせていた。 「二人共ありがとう。そしてお疲れ様。」  一部始終見ていたようだ。梅葉は照れた。  中に入ると、桃花達が待っていた。黒鉄と梅葉の心配をする。 「黒鉄さん、梅ちゃん、大丈夫だった?」 「ああ、心配かけたな。すまん。でもこの通り大丈夫だ。」 「たぶんあたしたちのお陰でもう悪さもしないでしょ」  萩作も笑って戻ってきた。 「これで寺子屋だけでなく、いたずらも収まるだろう。」  桃花はやっと平和が戻ってくる事に心から喜んだ。 「今日はありがとうございました。桃花も梅葉も大変お世話になりました。」と先生に挨拶をする桜子。  帰り道は黒鉄と萩作が送ってくれることになった。 「じゃあ黒鉄が僕の事を話してくれたんだ。」  萩作は自分の事を話そうとしたが、行きで黒鉄が大体のことを話していた事に驚いた。黒鉄は口下手であまり話をするのが得意ではないからだ。 「僕はいつも寺子屋かうさぎ屋敷にいるから」 と萩作は言った。 「今日は楽しかったね」と桃花。 「うん、そうねぇ…。」と桜子は何か考え事をしているようだ。 「梅ちゃんは頼もしいね」 「いたずらタヌキ共をコテンパンにしてやったわ」と自慢顔。 「うん、そうねぇ…。」  今日の夕餉は切り干し大根に厚焼き玉子、ご飯に味噌汁だった。  それから数日後、桜子が言った。 「私も寺子屋で働く事にしたの。」 と言い出した。  梅葉と桃花は急に言い出したため、たいへん驚いた。 「先生と萩作さんに頼んで寺子屋で働かせてもらえることになったの」 「急ねぇ」 「いいえ、あの日帰ってきてからずっと考えていたのよ」 「先生と萩作さん、何より子どもたちと一緒にいられるあの空間が気に入ったの」と桜子は言う。  そして桜子が寺子屋に行く最初の日になった。 二人だけになると暇だねと言い合う桃花と梅葉。 「桜ちゃん、気をつけてね」 「ありがとう」  桜子は寺子屋の前についた。少し緊張すると思った。果たして自分は受け入れてもらえるだろうか。胸の高鳴りをおさえる。ごめんくださいと言おうとすると、戸が開いた。 「ああ、桜子さんいらっしゃい。どうぞ中に」 と萩作。 「今日からお世話になります、桜子です。よろしくお願い致します。」 「ああ、よろしくお願い致します。」  中に入ると先生が今日の授業の準備にとりかかっていた。 「ああ、桜子さんいらっしゃい。では早速手伝ってもらえるかい」 「はい、わかりました。」  その日桜子は、自分にできることを精一杯行った。  帰り道は萩作が送ってくれることになった。桜子は萩作に対し、質問したくなった。 「萩作さんは料理茶屋のほうはお手伝いなさっているのかしら?」 「いえ、寺子屋だけです。あっちには夫婦の実子の紫苑がいますから。」 「私もその料理茶屋には行きたいですね。」と桜子は言う。  萩作と話す桜子は胸の高鳴りがおさまらなかった。 「あ、帰ってきた」 「ただいま帰りました。桜子です。」 「おかえりなさい」 「どうだった?」と桃花 「ええ、充実した一日でしたよ」と桜子 「今日の献立は何しようかしら」 「それなら大丈夫よ。さっきタマさんが鯉の天ぷら作ってくれたから」 「あら、タマさんに今度、お礼を言わなければいけないわね。」  そして桜子の楽しかった一日が終わった。
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