301人が本棚に入れています
本棚に追加
/179ページ
奪われた初キス
パチパチと。
燃え盛る炎に包まれる私のアパート。
季節は一月。
冬特有の乾いた空気と、
たまに吹き抜ける突風により……
「格安木造アパート、全焼とは……」
火の勢いってスゴイ……。
何がスゴイって、炎がどんどん大きくなっていって、あっという間にアパートを飲み込んでしまう所。
「お母さん、出て行ってて良かったね……」
誤解がないように言うと……
「ちょっと用事で留守中」とか、
「少し買い物に出ている」とかじゃなく。
お母さんは、永遠に出て行った。
幼い頃に両親が離婚して以来、母に育てられて来た私。だけども今朝、その母は書き置き一枚でアパートから姿を消していた。
『冷蔵庫におにぎりあるからね』
そのおにぎりも、アパートが燃えた今は、炭になってるわけだけど……。
「おにぎり、食べたかったなぁ……」
栗色ロングの私の髪に、空中を舞う灰が絡まる。黒色の斑点が、髪に浮かび上がった。
「はぁ、今日のお風呂大変だよ……。髪が長いとただでさえ洗うの面倒なのに。じゃなくて……!
お風呂どころか、今日私が寝るところも無くなったよね……!?」
新年明けましておめでとうございます、のお焚き上げのノリでアパートを見てたけど……。
え、あの炎の中に私の全財産あるよね? 微々たる額とはいえ。それにお金だけじゃなくて、学校のカバンや制服や教科書、ノート、そして文房具。
「だけじゃなくてパジャマも!!」
ヤバい! 完璧にヤバい……!
本当にヤバい! 何も残ってない!
何も手元にない!
今日は土曜日だから、私はダルダルの部屋着で外を散歩してただけで、今手の中にアパートの鍵が一つあるだけ……。
「じゃあ下着も……!?」
その時、消防士さんに「下がって!」と注意されてしまう。
「わ……!!」
慌てた私がコケそうになった、
ちょうど、その時――
ガシッ
最初のコメントを投稿しよう!