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「どうした?」
突然、兄から声をかけられて動揺した私は、少しよろけてゴミ箱を倒してしまった。
クシャクシャに丸められた手帳の切れ端が一つポロリとゴミ箱から飛び出した。
私は「びっくりさせないでよぉ」と、涙を拭ってその丸められた手帳の切れ端を広げてみた。
"やることリスト"
✓・○○銀行のお金を美沙の口座に移す。
✓・公共料金の引き落とし口座の変更。
✓・車の名義を智樹へ変更。
✓・葬儀の積立金の解約手続き。
・ケータイ電話の解約。
✓・兄弟たちへ連絡。
✓・囲碁クラブの退会。
✓・山崎さんに借りた本返す。
・
残された時間にやるべきことのTODOリストだった。
父はどんな想いでこれを書いたのか…と、私は胸が締め付けられる思いでその文字を眺めていると、ずらずらと書きだされている項目の下の方に"愛菜にあの時のことを謝る"と書かれてあるのを見つけた。
…え?
あの時のこと?
凛の妊娠を報告に行った時のこと?
その項目にはチェックが入っていない。
あの、最後の電話…
父はもしかして…
私は胸が張り裂ける思いがした。
父は、本当はすごく愛情深い人だったのかもしれない。
ただ不器用で、それを言葉にできないだけの…
あの日、私はどうして電話で父の言葉を聞かなかったんだろう。
聞いていれば、私も素直になれていたかもしれないのに…
いや、どうしてもっと早くから本音でぶつからなかったんだろう。
私がもっと、父に本音でぶつかっていれば、わかり合えていたかもしれないのに…
そう思ったら涙が次から次へととめどなく溢れて、止まらなくなった。
嗚咽まじりに、私はわんわん泣いた。
「お父さ…ん、ゴメンねぇ」
父と一緒に過ごした日の記憶が、次々に思い出されてくる。
あんなに堅物で、厳しくて、怒ってばかりだったと思っていたのに、どういうわけか父の優しい笑顔ばかりが思い出される。
どうして忘れてしまっていたのだろう。
厳しいだけじゃなかったことを…
会いたい。
会ってちゃんと話がしたい。
でも、もう二度と叶わないのだ。
私はこの日、一日中、父を思って泣いた。
父との優しい記憶を思い出しながら泣いた。
遺影写真の父が「バカだな、そんなに泣くなよ」と、呆れているように笑って見えた。
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