第2章 薫の冒険

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 主人がこうなれば、その後は従うしかない。1ヶ月間で執事から教えられた暗黙の了解である。咎人は主人の反応にデジャヴを感じたし、ジョナサンは「もうどうなっても知らない」と言いたげな呆れ顔で押し黙ってしまった。  2人が何も言わないのを確認すると、レイモンドは弓形(ゆみなり)に目を細めて笑う。今度は悪戯に成功して得意げに笑う子供のようだ。咎人にとっては苦手の部類に入る。  子供っぽい紳士は両手を後ろに回し、両足でステップを踏みながら結界に近付く。冷却されて硬くなった砂利道が黒い革靴の裏と摩擦する。小さな衝撃を受けた靴底は、地面をハンマーで軽く叩くような音を出す。  レイモンドは結界にそっと手を差し出した。表面に手の平を突いたかと思うと、前面へ勢いよく押し出す。  外部の青年は、丁度結界に殴り掛かろうと助走をつけていた。
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