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プロローグ
203X年11月2日早朝、K県神楽市の幽木共同墓地の事務所で一人の男性の遺体が発見された。
被害者の男性は、"狼森咎人"、45歳。幽木共同墓地に隣接する管理事務所の職員、いわゆる墓守として勤務していた。
遺体には胸板と右手の平と首の左側に損傷が見られた。死因は頸動脈を刃物のようなもので切り裂いたことによる失血死。
第一発見者の事務員によれば、被害者は事務室の奥の壁に後頭部を凭れさせる形で死亡していたという。
現場となった事務室では、机の上の文房具や書類などが床に散乱していた。また、現場では扉付近から被害者が倒れていた場所まで血痕が続いていた。それも直線的にではなく、部屋のそこかしこに飛び散っていた。
おそらく被害者は扉を開けた瞬間に犯人に襲われ、刃物で胸板と右手を切り付けられた後で犯人と揉み合いになり、壁に追い詰められた所で頸動脈をやられ殺害されたのだろう。
この事件では容疑者の特定が特に困難だった。当時事務室にいたのは被害者ただ一人で、他の職員は皆帰宅していた。事務所の防犯カメラの映像はどれも手掛かりとして使い物にならなかった。
事件現場である事務室の前のカメラを最初に確認してみたが、夜8時45分にコンビニに買い出しに行って帰ってきた被害者以外には何も映っていなかった。
他のカメラの映像も確認したが、犯人らしき人物はどこにも見当たらなかった。
警察は、犯人がカメラには映らない事務室内の窓から侵入した可能性を考えた。しかし、事務室は入口以外に窓や扉など出入りできる場所がひとつも設けられていない小部屋だった。
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