ふたりの気持ち

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ふたりの気持ち

マンションのエレベーターに乗っている間、一ノ瀬クンは何故か私の手をぎゅっと握っていた。 良く考えたら、私は一ノ瀬クンの事を殆ど知らない。 大学にある学生の資料で、生年月日や住所なんかは知ることが出来ても それ以外の事を知らない事に気付く。 私は今、一ノ瀬クンをもっともっと知りたくなっていた。 一ノ瀬クンは、今私といる事をどう思ってるんだろう? ただの酒癖の悪い年上の女性ってだけなのか? 酔ったらなんでもできる女だなんて思われていたら…… 昨日の夜、あんなに酔ってしまった事を、今更後悔していた。 地下でエレベーターを降りるとそこは駐車場だった。 広い駐車場、マンションがどれだけ大きいのかがわかる。 「あっ あれだ」 私が一台の車を指さすと、一ノ瀬クンが 「ちょ ちょ…、俺の車なんで知ってんだよ」 ちょっと怒ったように言った。 「だって他のは全部超高級車でしょ」 そう、他の車は殆どが外車でそれも特に高そうな車種ばっかりだ。 その中にポツンとふつうの国産 「普通がいいじゃん」 そう言うと一ノ瀬クンが笑った。 でもなんでこんなに高級車ばっかりなの? 私の知らない世界だ。 私はため息をついた。 「そんなため息つかなくても、いつか俺が柚香に超高級車買ってあげるから」 一ノ瀬クンが楽しそうに言った。 「ありがとう」 冗談ぽく返事をしたけれど、期待させるような事言わないでよ。 本気にしちゃうから。 でも違う。欲しいのはそんな物じゃない。 車なんかじゃなくてもっと他に欲しい物がある。 それを手に入れるのは、容易い事ではないかもしれないけど。
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