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パタパタと窓に当たる音で、外は雨が降っているのだと今気がついた。
いったいいつの間に降りだしたのだろう。
「俺たちが愛し合ってるときから降ってるよ」
「……そうでしたか」
「あぁ、ひなたは夢中だったから雨に気づかなかったんだな」
恥ずかしいけれどその通りだった。
大好きな人に抱かれているよろこびに浸っていて、雨の音はまったく耳に入ってこなかった。
余裕がないなどと言っていた彼のほうが、雨に気づいているなんて。
「十年前に初めて出会った日も雨だし、俺が傘を買いに行った再会の日も雨だったな。一緒に地中海料理を食べた日もだ。しかも土砂降りだった。初めて結ばれた今日も降ってる。俺たちはこの先もきっと雨ばかりだな」
私たちの思い出を遡り、思えば雨ばかりだと彼が揶揄する。
考えてみると本当にそうで、私もつい噴出しそうになった。
「雨男と雨女のカップルですよ? そりゃ降りますよ。でも私、雨は嫌いじゃなくなりました」
「どうして?」
「雨が私たちを引き合わせてくれましたから」
十年前のあの日だって、あのとき雨が降らなければ、私はカフェの軒先で雨宿りなどせずにそのまま素通りして駅に直行していた。
そうなると彼には出会えていなかったのだ。
再会した日も、もし雨が降らなければ、彼は傘を買いに雑貨店に足を踏み入れることはなかっただろう。
そう思えば、かけがえのない彼と出会わせてくれた雨を、嫌いになんてなれない。
「それに、部屋の中にいるときは雨でもかまわないですよね」
「そうだな。こうしてベッドの中でひなたを抱きながら聞く雨音も悪くないな」
いたずらな彼はわざとこういうセリフを言い、私が照れるのを見てよろこんでいる。そんなドSな部分があると、たった今知った。
「部屋の中にひなたという陽だまりがあるなら、外は雨でもかまわない」
そう言いつつ私の額にキスを落とすこの人は、どこまで私を溺れさせるつもりなのだろう。
こうなってしまえば、離れられないとわかっていた。
だから彼が既婚者だと知ってからは、近づかないように心掛けていたのだ。
でも今はもう近づいていい。
自分の心のままに行動していいし、離れなくていい。
それだけでたまらなく幸せを感じる。
ストーカー被害にあって怖い思いをしたけれど、いろんなことに気づかされもした。
彼の勇敢さや人間的なやさしさ……
私は誰を必要とし、誰を大事に思っているのか。それに気づくことができたのだ。
彼と再会できたことは雨がもたらした“奇跡”だ。
“奇跡”が重なり、雨男と雨女が出会って恋をした。
これからは彼と一緒に笑って生きていきたい。
―― end.
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