『七才』

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 ユキトは、Seven years という曲を弾いてくれた。  もうすぐ一年生になって、それから7才になるからねと言って。    ノラ・ジョーンズというひとの曲だって。 「ちょっとさみしそうな曲だね」  わたしが言うと、ユキトが、7才の女の子がお気に入りの曲に合わせて踊っていて、悩みなんか何もないっていう歌だよ、って教えてくれた。  わたしはその歌を歌ってくれるように頼んだ。  ユキトが弾きながら歌ってくれるのは、わたしにだけ。  お母さんやハヤテがいるときには、恥ずかしがって歌ってくれない。  もったいない、とわたしは思う。  かすれた声で歌うユキトはけっこうかっこいいのに。  まあ、サッカーをしているハヤテの方が、だんぜんかっこいいけど。  そういえば、最近ハヤテのサッカーの試合を見ていない。  年長さんになったくらいから見ていない気がする。  歌は英語だったから、聞いても意味は分からなかった。  でもやっぱりさみしそうだと思った。  7才の女の子に悩みがないなんて、ウソだ。  わたしはまだ6才だけど、お母さんにもハヤテにもユキトにも話してないことがある。  その中には、内緒にしておこう、と決めたこともあるし、何となく話さないままになってしまったこともある。  スピニン、ラフィン、ダンシン、とわたしも真似して歌う。  ピアノのあと、ユキトとお風呂に入った。 「今日は研究室から早く帰れたからね。久しぶりに、ひかりのバレエを見たかったんだけど。間に合わなくて残念だったな」  ユキトはお話ししながら、わたしの髪の毛を洗ってくれる。 「見にこなくて、よかったよ。がっかりするもの」  うっかり言ってから、しまった、と思った。  ユキトは何も言わずにシャンプーを流す。  わたしの話の続きを待っているのだ。 「わたしはお母さんの子なのに、上手くないもの」  わたしがいつも行ってるレッスンでは、みゆちゃんが一番上手い。  特別に上手い子って、わたしにも分かる。  ピルエットはことちゃんが上手。わたしは、その次くらい。  でも、わたしがこわいのは、みゆちゃんの方が上手だって、お母さんは気付いているんじゃないかってこと。  気付いているのに、それをわたしに言わないのはどうしてかって考えてしまうこと。
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