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「通常、転移したらすぐ人の世界に降ろすんだけど、クロエはどうする?」
「人の世界……」
「クロエの前世にあった、娯楽に描かれるものと近い世界が広がっているわ。十の王国があり、数十年前に魔王が現れて魔物がはびこり、騎士や魔法使いが活躍している世界よ。
転移または転生した者には魔法の才能がランダムに与えられます。
あなたの場合は治癒魔法ね。十分食べていけるスキルよ」
「……」
私は考え込んだ。確かに、そういった物語には触れてきたことがある。異世界に来たことで、主人公たちは苦労しつつも華々しく活躍するようになる。
だけど、今の私が異世界に来たからって、同じようにやれるとは思えない。何より……怖い。
黙っている私を見て、女神様は「ついてきて」と別な部屋に連れて行った。そこは女神様の私室のようだった。バルコニーがあり、絨毯があり、ヨーロッパの宮殿にあるような、装飾付きの長椅子があった。
「ところであなた、猫は好きかしら?」
「えっ……猫? わりと好きですけど……特に黒い猫は」
「じゃあそうしましょう」
女神様は杖を一振りして、私を猫に変えてしまった。
「ええっ!?」
しかも人の言葉がしゃべれる黒猫だ。
さらにもう一振りして、絨毯の上に水晶玉を出現させる。こわごわのぞきこむと、そこには人の世界が写っていた。
「お試し期間ってことで、ここでしばらくゆっくりするといいわ。
水晶玉から下の世界をのぞいてみなさい。気になる時はバルコニーから降りてしばらく過ごしてみて、それでクロエが『ここで生きたい』と思える場所ができたら、私に教えて。
――さて、慣れない召喚魔法を使ったことだし、私はひと眠りするわね」
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