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「海斗〜!花火始まる!」 「あ、待ってよ!」  小学一年生の夏、海斗は初めて隣の家に住む理子と花火を見る約束をした。  同い年で物心ついた頃から一緒に遊んでいた理子は、海斗の幼馴染であり、初恋の相手でもあった。 「どっから見るの、遠くまで行く?」 「どこにも行かなくていいんだって、あたしたちのお家の前からすっごく綺麗に見えるらしいよ」  食べかけのスイカをそのままに、海斗の家のリビングを飛び出すふたり。廊下を駆け抜け、サンダルをつっかけて外に出ると、蒸した空気が肺に流れ込みじわりと汗が滲んだ。  遠くの方から聞こえる賑やかな話し声。きっとみんな河原の方で花火を見ようとしているに違いない。 「……ホントにここから見えるの?」 「見える!ママがそう言ってたもん」  不安気に空を見上げた海斗のとなり、理子は自信満々に微笑みながらガレージの前にペタリと座り込んだ。海斗もそれに倣って、あたふたと腰を下ろす。そして、一瞬の沈黙。  ねえ、いつ始まるのかな。  海斗がそう尋ねようと口を開いた、その瞬間。    パッと明るく空が光り、大輪の真っ赤な花火が夜空に打ち上がった。  少し遅れて、ドンと心臓まで震えそうな大きな音が轟く。休む暇もなく次の花。バラバラと派手な飛沫と共に、夜の闇に散っていく。  丘の上に建つ家の前、確かにそこは特等席で花火全体が余すところなく見えた。    理子に話しかけようと開いたままだった海斗の口から、思わず「わぁ」と声が漏れる。それと同時に、理子も同じような歓声をあげた。  思わず顔を見合わせる、笑顔が溢れる、夏の片隅。 「綺麗だね、海斗」 「うん、スッゲー」  初めてしっかりと見たこの町の花火。それにすっかり魅せられた海斗と理子は、「これから毎年一緒に見よう」と淡い約束を交わした。  そしてその約束は中学時代も、高校に入ってからも確かに長く守られてきた。  しかし、男女の友情は往々にして難しい局面を迎えることがあり、海斗と理子の場合も例外ではなかった。
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