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 退屈な夏を鮮やかに彩る花火。  いつからかそれを直視できなくなったのは、間違いなくあいつのせいだ。 「……今年も帰ってきてねーか、」  バイト終わり、やっと辿り着いた自宅の門の前で、大学三年の海斗は大きなため息と同時に独りごちた。  地元の花火大会前夜。小さな町全体がどこか浮き足立って見える、そんな夜。  見上げた海斗の視線の先には、隣家の二階の窓。鉛色の古めかしい雨戸に閉ざされ、中の様子はわからない。それはもう見慣れた状態ではあったが、見る度に海斗の心にちくりと爪を立てる。 「……ただいまー」  諦めて家のドアを開ける。いつも通り失望を感じとられないように、廊下の先に明るく声をかける。  毎年こうしてささやかな期待を抱いては、打ち砕かれるのも習慣になってしまった。  明日は、年に一度の花火大会。あの部屋の主、理子はまだ戻ってこない。
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