第4話『白波瀬家のルーツ』

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「これはこれは学長。まさかこの場所にいらっしゃるとは知らずに挨拶もせずに失礼しました。」 秋夜は敬っているのかどうかよく分からない口調で立ち上がりながら頭を下げた。 「ふん、赤井、慣れないことをしないで良い。白波瀬雪乃に話すのは碧川が適任だと思っておったが、今更引き返すこともできんだろ。儂も同席させて貰おう。」 「…これはこれは、流石の俺も緊張しちゃうなぁ。」 「ふん、相変わらず本心を隠すのが下手な男だ。お主、このまま白波瀬雪乃をゴースト研究の材料にする気ではあるまいな?」 学長は鋭い眼差しを秋夜に向けた。 「どういう意味ですか?」 「お主なら人体実験でもやりかねん。非科学的なものを科学的に証明することに生き甲斐を感じるお主ならな。」 「じ、人体実験!?」 雪乃は酷いことをされる自分を妄想し、秋夜から一気に距離を取った。 「学長、流石にそれは。彼女警戒しちゃってるじゃないですか。」 「ふん、警戒しとくことに越したことはない。」 「…ならお聞きしますが、何故彼女をこの学園に向かい入れたのですか?ゴーストを生成する力が暴走すれば彼女は危険分子ですよ。」 「お主が知る必要はない。赤井、この場を去りなさい。」 学長の放つオーラは雪乃にも伝わるほど怒りの念が込み上げていた。秋夜は、一瞬で全身に汗をかき、足が震えていた。 「…俺も暇じゃないんで。雪乃ちゃん、またね。」 秋夜は強がりながらも足がガクガク震え変な歩き方で階段を下っていった。 「ふぅ、すまなかったな、大人の嫌な部分を見せてしまった。座りなさい。」 雪乃はビクビクしながらソファに腰掛けた。 「…お主はそんなに緊張する必要はなかろう。しかし、碧川も今まで話しておらんかったとは。ミサカに召喚される話になっておると言うのに。」 「あ、あの…。」 「すまんすまん、今はまだこっちの話じゃ。では、儂から話そうかの。この街とゴーストとの関係と白波瀬家の話を。お主には話す必要があるからの。」 学長は雪乃の対面に腰を下ろした。 「まず、ゴーストは何故存在すると思うかの?」 「…ゴーストは元々人間です。亡くなってこの世に未練や恨みがあるものがゴーストになるんだと思います。」 「ふむ、9割正解じゃ。残りの1割は、本来ならゴーストになる必要がない霊魂からゴーストを生成する力がある者がおり、ゴーストを生み出しておるのじゃ。」 「…何の為にですか?」 「ふむ。この学園の教師の中でもほんの一部しか知っておらんことだが、この北棟の地下は学園とほぼ同じ面積の地下空間への入口となっておる。…そこにゴッドクラスの中でも最高位とされる『ミサカ』が封印されておる。」 「…ミサカ?」 「ゴッドクラスとなるゴーストのほとんどが、この国の歴史上に名を残した者たちばかりじゃ。ミサカはこの国の歴史上最も偉大な霊媒師と言われている人物じゃ。正式な名は『御坂金后神(みさかこんごうのしん)』と言う。」 学長は立ち上がり、本棚から一冊の古い文献を手に取ると、ページを開いて雪乃に渡した。 「そこには御坂金后神のことが書かれている。文献によれば、この国の霊魂は皆、御坂金后神によってあの世に導かれると。御坂金后神には7人の遣いがおり、それぞれが生物の面を被り、御坂金后神の周りを踴りながら霊魂の導きに助力していたと。」 「このミサカがゴーストの生成とどういう関係があるんですか?」 「ふむ、この街にゴーストが集まるのは、皆この封印されておるミサカの持つ力を狙っているのじゃ。とはいえ、北棟の地下の入口には強固な結界が張ってあり、ほとんどのゴーストがミサカのいる場所すら気付く術はない。」 「もし、ゴーストがミサカと接触した場合、何か起きるんですか?」 「…分からぬ。一説には全ての人間を滅ぼす力が手に入ると言われておる。故にゴーストを生成する力を持つ者は陰謀者扱いを受け、その家系の一切の血筋を残すことすら許されぬ時代があったのじゃ。」 …それが白波瀬家なの? 「…あの、その考えはもう終わった話ですか?つまり、白波瀬家の人間を滅亡させるべきだと言う考えは…。」 学長は首を横に振った。その意味を理解した雪乃は恐怖を感じてうつ向いた。 「まだ一部の人間たちには、その考えが根付いておる。碧川はお主を守るためにこの学園に引き入れたのじゃ。」 「でも、どうしてネロさんは私を匿う必要が…。」 "ピコーン!メッセージだよ!" その時、雪乃のスピが鳴り、雪乃はポケットから取り出した。 「招集かの?」 「はい、行ってきます。」 「この続きはまた話すとしよう。気を付けてな。」 雪乃は学長に頭を下げると、急いで階段を下っていった。 「お主の本心は儂の思っとる通りで間違いないよのぅ…碧川。」 学長はそう呟きながら文献を本棚に戻した。
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