第4話『白波瀬家のルーツ』

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流石の涎にいおりが慌てて雪乃を起こすと、寝ぼけた雪乃自身も涎の量に驚いてソファから転がり落ちた。 いおりと亜梨沙が雪乃に手を貸していると、先程放った霊獣から信号を受診した澪は座ったまま集中した。 「…北棟?」 澪は小声で呟いた。亜梨沙がピクッと反応した。それに気が付いた澪は、声に出さないように気を付けることにした。 …さっきの男性は自分は医者だと言っていたわよね。何でその男性が北棟に?北棟は医者であっても入る権限はないはずよ。 「っ!?嗅鼠からの信号が途絶えた。…この感じ、消されたわね。」 澪は顔を強張らせた。 ー 北棟 ー 30秒前。 「何故ここに霊獣が。…嗅鼠か、追跡に優れた霊獣ということは誰かが付けられていたということかしら。悪いけど、消滅してもらうよ。」 謎の声の主は嗅鼠を一瞬で消滅させた。 その日以降、特例班にしばらく討伐の出動はなく、雪乃たちは、一般の学生とは授業時間はズレるが普通の学園生活を送りながら、特例班の学生との交流を深めていった。授業終わりに訓練室での討伐訓練をはじめ、モールエリアでのショッピングや飲食も楽しんだ。 しかし、時間が経過しても千里は中々目覚めなかった。いおりや澪も訓練やショッピングには付き合っていたが、心は上の空状態でいつも千里のことを気に掛けていた。容態が良くならないため、面会謝絶が解かれることも無い。 そんな日々が10日間経過したある日、授業を終えた雪乃が1人で東棟から出てフライングサークルの電源を入れようとすると、背後から「白波瀬雪乃さん。」と名前を呼ばれて振り返ると、スラリとした体型で眼鏡を掛け、白衣を着ている男性が立っていた。 「…はい、私が白波瀬ですけど。」 「初めまして。俺は赤井秋夜(あかいしゅうや)、ずっと君と話がしたかったんだけど、中々タイミングが合わなくてね。」 「えーと、すみませんがどちら様ですか?」 雪乃は少し警戒した表情で言った。 「あ、え?曽我谷津楓の班葬の時にも居たんだけどな。俺は科学班の指導者だ。君が今持っているフライングサークルは俺が作ったものだよ。」 雪乃は手にしていたフライングサークルと、秋夜の顔を交互に見た。 「これを赤井先生が…凄い方ですね。」  「まぁね!この学園には科学班が作っているものが色々使われているんだ。」 「でも、科学ってゴーストとか非科学的なものの真反対だと思うんですが…。」 「ハハハ、いい質問だ。俺は逆に非科学的なものを科学的に証明することが使命だと思ってるんだ。俺にはゴーストを見る力が無い。活動班の活動内容は理解しているが、俺自身ゴーストの存在を信じ切れてはいないんだ。ゴーストの存在を科学的に証明出来れば、君たちの活躍の幅もぐっと広がるだろ。」 「…そうか、ゴーストって当たり前に見えるものじゃないのか。」 「君は特例班の面々としか接しないから、それが当たり前になってるのかもしれないが、世間の大半の人間がゴーストは見ることが出来ない。君は古からゴーストとは深い関係の家柄だから、そういう意味では恵まれてるんだ。」 …古からゴーストに関係する家柄? 「…その表情は何だい?君は自分の家柄を理解していないのかい?」 雪乃は頷いた。 「ネロはほんとに大事なことを教えない奴だな。時間あるかい?いいとこに連れて行こう。」 秋夜は肩から下げていたポシェットから、掌ほどの大きさのフライングサークルを取り出すと、それを地面に置き掌を翳した。 「その小さいのに乗るんですか?」 「まぁ見ててみ。」 フライングサークルが起動すると、円形の外側が広がり通常の大きさに変形した。 「うわ、す、凄い。」 「持ち運び用フライングサークルの試作品だ。科学は常に進化を求められる。フライングサークル1つにしたって、第1作目が完成して満足してちゃ駄目だ。よっと!」 秋夜はフライングサークルに飛び乗った。 「じゃあ付いてきてよ、北棟に行くよ。」 雪乃も急いでフライングサークルを起動させた。 東棟の最上階にある教室の窓からその様子をネロが見下ろしており、ネロには何故か2人の会話が聞こえていた。 「…秋夜のやつ、雪乃をあそこに連れてく気か。…ここはあいつに任せておくか。」 ー 北棟2階 ー 雪乃が初めて来る北棟の2階は、廊下の明かりは薄暗く、等間隔に重厚なつくりのドアが配置されていた。 「このエリアはいくつも会議室がある。昔は来客の宿泊部屋に使用してたみたいだ。」 秋夜は解説をしながら、廊下の突き当たりまで進むと、他のドアとは違うつくりの2枚扉が現れた。 「ここが今回の場所だ。開けてみ。」 雪乃は2枚扉の左側をそっと押してみた。隙間から見えただけの光景に目を奪われ、すぐに扉を全て押し開けた。 「す、凄い!」 そこは何万もの書籍を収納している図書室で、3階層のつくりで、床から階段に至るまで緑色のふかふかの絨毯が敷き詰められていた。中に入って一周見回すと、壁が360度全て作り付けの本棚になっており、優しいオレンジ色の明かりに包まれた部屋は美しさを感じた。 「この図書室にはセンシアの歴史、この学園の歴史に関する書物が山ほどある。科学を勉強する上で、事実を記した歴史書は重要な研究材料だ。君に見せたい書物はこっちだ。」 秋夜は階段を上がって本棚から書物を取ると、読書スペースのソファに腰掛け、テーブルで書物を開いた。雪乃も隣に座り、秋夜が指差す部分に注目した。 「ここからこの街のゴーストに関する記述がある。勿論、昔はもっと小さな村で、物怪(もののけ)という言い方をしていたようだけど。この物怪に関係する家柄の1つが君の白波瀬家だよ。」 「…物怪…ゴーストに関するって、どういうことですか?」 「記述によると、ゴーストを浄化したり、生成することができると書いてある。」 「…ゴーストの生成?」 雪乃は浄化は意味がわかったが、生成の意味が理解出来なかった。 「そうじゃ、そしてゴーストを生成する白波瀬家はやがて滅ぶべき家系と言われるようになったのじゃ。」 2人の眼前の階段から洞爺学長が現れた。
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