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「ハテナ!」
知識の必死な声に呼ばれ、わたしは目を開ける。そこはオーロラの部屋ではなく、秋の虫の音が鳴る星見遺跡だ。どうやらわたしは冷たい石の床に倒れているらしい。体を起こすとズキリと後頭部に痛みが走った。振り返れば、閉ざされたままの石扉。
「あれ?扉、開いてたよね?」
「ちょっと大丈夫?頭打っておかしくなったんじゃないでしょうね?ハテナは虫に驚いて、転んで、扉に頭をぶつけて気を失ったのよ」
そう言われれば、そんな気もする。わたしはぼーっとする頭で、知識と遺跡と月を眺めながら、忘却の魔女のことを思い出していた。随分不思議な夢を見たものだ。あれはわたしの深層心理を何かしら反映していたのだろうか?それとも。
「ねえ知識。どうして突然日本に帰ってきたの?」
「何よ唐突に。そうね……世界中の不思議を探求し尽くしちゃったから、かしら」
そんな訳はない。栄養補助食品のカロリーも把握していない彼女だ。きっとまだまだ知らないことがある筈である。
もしかすると彼女もわたしと同じ……つまらない大人になりかけているのだろうか?宇宙人も地底人も居ないと、諦め始めているのだろうか?
真剣に魔法の言葉を探していた知識。彼女は今夜のこの冒険に、わたしとの再会に、何かを賭けていたのかもしれない。
「じゃあさ、今度は二人で行こうよ。知識は猪突猛進だから、いっつも何かを見逃しがちだもん」
「二人でって……」
知識の目が見開かれる。そこに、明るみ始めた空が映った。
「さあ、行こう」
わたしは手を差し出す。知識は一瞬躊躇った後、その手を取った。
「不思議発見部、ここに復活ね」
「もう置いて行かないでよね」
「勿論よ。一人旅には飽きたもの。よろしく、相棒」
爛々と輝く知識の瞳。わたしは自分の中からむくむくと湧き上がる好奇心に、心地よい鳥肌が立った。再び始まる二人の冒険。まずはどこへ行こう?何をしよう?
とりあえず朝食に、美味しいコロッケ蕎麦を食べに行こう。
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