冷蔵庫と机

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どうして僕は 愛する人に愛される日々を 手にする事ができないんだろう。 みんな、当たり前のように 伴侶がいて、子供がいて、家庭がある。 なのに、僕は一人。 未だに一人。 仕事に時間を費やしてきたけど それの対価が手元にあるかと言えば 僕の年齢よりも長生きしている マンション?と言えば聞こえはいい 集合住宅で毎月使い切りの生活を送っている。 ゲームの課金もしないし 有料テレビも見ない 車もバイクもないし 食べ物は原料と呼べるレベルだ。 今日は仕事は休みだが 何もする気にならない。 窓を開けても閉めても蒸す部屋で 生きているのか死んでいるのか 微動だにせずベッドに横たわっている。 暑い・・ 喉が渇いた・・ 何がある訳でもないが とりあえず起き上がって 冷蔵庫を開けてみる。 ん? ぼくは、いま、なにを見た? 思わず閉めていた。 もう一度、冷蔵庫の扉を開けてみる。 いた。 反射的に閉める。 一気に脳が覚醒した。 いったい?? 僕はもう一度 冷蔵庫を開けた。 すると そこで見つけたものは 僕に気づく事なく動き回っている。 うごきまわっているそれは・・僕だった。 正確に言えば 僕のミニチュアだ。 冷蔵庫の僕は 僕が見ている事に気付かない。 その日から 僕は、僕よりも幸せそうな 僕の観察を始めた。 冷蔵庫の僕は キチンとした性格のようだ。 整理整頓された居住空間で 勉強したり、筋トレしたりしている。 勤勉によく動く僕を 時々眺めながら 僕はごろごろする。 冷蔵庫の僕は ある日、彼女ができたらしい。 泣いたり笑ったり おねだりしたり・・ 目まぐるしく懐く彼女が 僕にまとわりついているのを 時々眺めながら 僕はごろごろする。 静かな部屋。 一人のベッド。 ごろごろする等身大の僕。 気がつけば 冷蔵庫の僕は結婚していた。 子供もできたらしい。 絵に描いたような 幸せな家庭だ。 幸せな僕・・ こんな顔して笑うんだ・・ 冷蔵庫の僕の妻は 料理が好きなようだ。 美味しそうで手間のかかった料理が 毎食上がっている。 僕はそれを眺めた後 チェーン店の牛丼を食べる。 ある日、冷蔵庫を開けると その日は休日だったらしい。 お父さんが大好きな子供達が 嬉しそうにまとわりついている。 黒目がくるくるして 愛らしい子供達 なんだか、誇らしい気持ちになった。 おや? 疎遠になった母親まで 冷蔵庫の住人になっている。 冷蔵庫の僕は親の借金に 追い込まれる事もないのだろう。 うわ・・ 冷蔵庫の僕は仕事も成功しているようだ。 エリートな僕 なんだかかっこいいな。 そう思いながらも 僕は相変わらず蒸し暑い部屋の軋むベッドで 寝返りもしないで 天上のシミを眺めていた。 微動だにせず ただただ 天上のシミを眺めていた。
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