夏の終わりに花火が咲いて

7/11
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 毎年八月の最後の日曜日に行われる夏祭り。暦の上ではとっくに秋だと言うけれど、連日三十度を超える真夏日が続く。まだまだ秋らしさは微塵も感じられない。  友人にドタキャンされ、わたしは一人、花火を見上げていた。用意した着物を無駄にしたくなかったのもある。夏祭りの為に、かつて祖母からもらった着物を仕立て直したのだ。  この着物を着て夏祭りに来るのは、あの夏以来のこと。誰もいない隣におぼろげに蘇る気配が、胸をくすぐる。 「いつまで引きずってるんだろ」  髪を留める簪に手をかけ、独り言ちた。熱くなる顔を冷ますため、わたしは土手をゆっくりと歩いた。  少し歩いたところで、右足に痛みを感じた。下駄の鼻緒が当たる部分にマメが出来てしまったようだ。  わたしは休憩用のベンチに移動して腰掛けた。足袋を脱ぐと、案の定マメが破れている。下駄の鼻緒も切れかけているし、やるせなくなってため息をつく。  思い出にしがみついて、結局花火もまともに見られない始末。わたしは何をしに来たんだろう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!