夏の終わりに花火が咲いて

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 夏の終わりは、恋の終わり。  夜空に咲く花火を見上げながら、わたしは十二年前の夏の日を思い出していた。  中学二年生のわたしは、両親の仕事の都合で、夏休みの間だけ祖父の家に預けられていた。  祖父の家は江戸時代から代々続く、洗い張りの職人の家柄。着物をほどいて水洗いし、生地を張って整える。いわば、着物のクリーニングだ。  着物の場合、普通の洋服のように手軽に洗濯機で洗うわけにはいかない。反物の状態に戻してから、丁寧に手で洗っていくのだ。汚れを落として張り直した反物を元の着物に戻すのは、和裁士である祖母の仕事。  持ち込まれたときにはくすんだ色をしていた着物が、二人の手にかかれば鮮やかに蘇る。子供の頃から見ていたその作業は、まるで魔法を見ているようだった。
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