エピローグ

3/4
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
【2】  その日一日は、その国の観光スポットを回ったり、国民達から御礼として沢山のご飯を盛大に奢っていただいたり、買い物をしたりして穏やかな一日を過ごした。  そして翌日――  日本から来た、ゴーストバスターの八名は正規ルートの空港から、飛行機で故郷へと帰る事となった。  因みに来る時は、各自裏ルートからこの国へと侵入した。方法は各自様々……機密事項である。  そして面々はこの国の人々に惜しまれつつ、御礼を述べられつつ、空港に着いた。 「おい、怜ぃ……」 「あ、命吉さんが話し掛けてくれたー、これ迄ガッツリ避けられてたのにー」 「う、うるせぇ!」 「命吉……素直じゃないから」 「バカ! 辞めろ見舞ぃ! まるでオレが恥ずかしがってるみてぇじゃねぇかぁ!!」 「その通り、でしょ? ……私達から話がある……怜と……そして、姫美に」 「え? 私!?」  突然話を振られてビックリしている姫美。 「な、何でしょうか?」  命吉と見舞の前へ、おずおずと足を運び、向かい合う姫美。  すると…… 「え?」  命吉と見舞が頭を下げた。 「な、何で……頭を上げてくださいよ」 「オレらは賭けに負けたんだぁ……謝るのは当然だろぉがぁ……」 「私達はあなたを疑っていた……ごめんなさい」 「煮るなり焼くなり好きにしやがれぇ」 「命吉、敬語」 「ぐぅっ……煮るなり焼くなり好きにしろぉ……です」 「命吉、敬語が変」 「う、うるせぇぞ見舞ぃ!!」 「え、ええー!?」  とまぁ、こんな感じにおかしな謝罪をして来た命吉と見舞を、慌てつつも相手をする姫美。  怜、彩乃、剣一郎、冥、天地の五名は、その様子を微笑ましく見守っている。  どうやら……証明はされた様だ。  姫美の無害認定は。  そして面々が飛行機に乗る為、歩き出したその時―― 「メイ! テンチ! レイ! 皆!!」  八人の背後に声が掛けられる。  振り向くと、そこには息を荒らげるライアルとレイルの姿が…… 「ライアルさん!? 何で……?」 「あの……皆さんに、まだちゃんと御礼を言えてなかったので……」 「御礼なんていらないよー、それに昨日家に泊まらせてくれたしー、ご馳走もしてくれたしー、ちゃんと御礼の言葉貰ってるからー、別に良いのにー」 「それでは、私の気が済まないの!!」  ライアルが、涙を流しながら頭を下げる。 「……この国を……救っていただき……本当に、ありがとうございました……心の底から、感謝しています」  するとライアルは頭を上げ、腫れた目でニコッと微笑む。 「どうしても、帰る前にもう一度、ちゃんと御礼が言いたくて」 「ありがとー! お兄ちゃん達ー!!」レイルも明るく御礼を述べる。 「そっかー……天国のお父さんにー、ボクらは少しでもー……報いる事が出来たかなぁー?」  怜のその言葉に、ライアルは笑って答える。 「勿論です! 大報いですよ!」  照れ臭そうに微笑む、怜達だった。  そして、見送るライアルとレイルを背に、八人は飛行機へと乗り込んだ。  出発時刻まで席に座り待機している訳だが……  席が隣となった天地と剣一郎は、会話を交わしている。 「またウチは……『霊王』との戦い、蚊帳の外だった。ウチだけ……ウチの一族はいつもそう」 「気にすんなよー、今回ばかりはしゃーないじゃん。ほら、怜と見舞さん達が揉めてたんだからさー、天地が譲った感じでしょ? 次の機会に倒せば良いんだよ、『霊王』なんてさ! 何せ後、九体も居るんだからさ!」 「うん……まぁ、そうなんだけど……そのつもりでは居るんだけど……何か疎外感ある」 「……意外と面倒臭いね、天地ってさ」 「何をー!! この侍めー!!」  ギャーギャーと騒ぐ二人を見つめる、姫美と彩乃、見舞と命吉。 「あの二人仲良いわねぇ……」 「これはキてる?」 「アイツら仲良いなぁ、ひょっとして付き合ってん……ぐはっ! ちょ見舞ぃ! 肘打ちすんなぁ!」 「バカ言わないの命吉、分かってるでしょ? あの二人はそれぞれ――」 「わぁーってるよぉ。……心配しなくてもよぉ……」 「……あの二人もぉ、何やかんやで仲良いわよねぇ?」 「これはダブルキてる?」 「まぁ……それに比べてぇ……」 「うん……」  彩乃が、この中で唯一、真面目な雰囲気を醸し出している怜と冥の席へと目を移す。  真剣な表情で、怜と冥は会話を交わしている。 「あそこはぁ、普段仲良いが故にぃ、一番イメージと違う会話をしてそぉねぇ……」 「間違いなくキてないね……」 「いやいや、姉弟でキてたらヤバいでしょぉ……」 「だね……」  冥は真剣な表情で言う。 「調査の結果、あの『霊王』は――  第十の王――『兆力無双』である事が確定したわ。怜ちゃま」  怜は困ったような顔をして返答する。 「あのレベルで、十の王ー? ……先が思いやられるねー……」 「『霊王』は、一の王に数字が近ければ近い程強い……即ち、今回の『霊王』――兆力無双は、『霊王』の中では、最も格下であると言う事になる……まぁ、とは言っても、普通の悪霊に比べたら、別次元の力を持っていた訳だけど……」 「うんー、強かったー……アレ以上の強さとなるとー……ちょっと想像付かないなぁー……想像したくも、ないしー……」 「そうね……それに今回は運が良かったわ」 「何がー?」 「こちらから――死者が出なかったから」  冥のその発言に、怜は神妙な顔で頷く。 「確かにねー……」 「『霊王』は、それぞれが王故に、手を組んだりしない……現れる時は、必ず一体で現れる……それも救いね……これで次も、『霊王』に対してフルメンバーで挑めるわ……本当に良かった」 「…………」  怜はこの時も、老婆の手が言っていた言葉を思い出した。  ――『霊王』の中の『霊王』…… 「……姉さんー、もしさー……」 「何? 怜ちゃま」 「『霊王』が二体とか三体、同時に現れたらどうなるー?」 「間違いなく、全員今のままだと全滅ね……各々がパワーアップしたとしても、ほぼ確実にこの中から――  犠牲者が現れる」  険しい表情で厳しい事を言い放つ冥。  彼女は続ける。 「今回、こちら側に犠牲者が出なかったのは、本当に奇跡よ……次はどうなるか分からない……怜も、その覚悟はしておきなさい」 「……うんー、分かったー……」  怜は渋々頷いた。  頷きたくは無かったが……頷く他無かった。  これは真実だ――  今後……『霊王』との闘いを続けていくのなら――  この中から確実に犠牲者が現れる。 『霊王』を相手にした時は、姫美の時のような蘇生は出来ない……  人は死んだら生き返る事はない……その真理に基づいての――犠牲者…… 『霊王』を倒しても……この国の犠牲者は帰って来ない。死んだのだから――この世から居なくなったのだから……  次は、この中から犠牲者が……  怜は飛行機内の近くを見渡す。  ギャーギャーと騒ぐ天地と剣一郎。  夫婦漫才をしているかのような見舞と命吉。  周囲を観察している弟子二人。  そして、横に座る――実の姉。  彼ら彼女達を見て、改めて怜は思った。  誰一人として、死んで欲しくない、欠けて欲しくない……と。  しかし、それは叶わぬ願いだろう……  彼ら、彼女らがゴーストバスターである限り――  飛行機が離陸する。  すると、冥がちょんちょんと怜の肩を付いた。 「何ー?」 「アレ、見てみなよ怜ちゃま」 「アレ? 何がー?」  怜がふと周りを見ると、他の面々も飛行機の窓に釘付けだ。  何があるんだ? と、怜が冥越しに窓を除くと……  怜達が救った国からのメッセージがあった。  飛行機から見渡せる範囲内での、街街で、それぞれ巨大な応援幕が掲げられているのだ……その横断幕にはそれぞれ、感謝の言葉が書かれている―― 『ありがとう!』 『あなた達は神様だった!』 『素晴らしいヒーロー!』 『また来てくれ!』  等々…… 「ねぇ、怜ちゃま……この国の人々、喜んでもいたし、悲しんでもいたよね」 「うん……そうだねー……」 「でも、私達が戦わなかったらー、きっと悲しい事ばかりだったと思う……」 「うん……」 「だからさ、今は暗い未来の事を考えるよりさ、この中の皆が全員無事な事を喜んで――あの国の人達からの感謝を……全力で受け取ろうよ! ね? 怜ちゃま! こういうの、嬉しいね!」 「うん……そうだねー、姉さんー」 「だからもう我慢しないわ! ブラコン全開よ! 怜ちゃまー!!」  そう言って、怜に抱き着く冥。  怜はそれを防ぐ。 「それは我慢してー……てゆーかー……もう自分でブラコン言ってるしー……はぁ……」  大きなため息を吐く怜。  そんな風に騒がしい面々を乗せ、飛行機は飛ぶ――  故郷である……日本を目指して。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!