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【2】
その日一日は、その国の観光スポットを回ったり、国民達から御礼として沢山のご飯を盛大に奢っていただいたり、買い物をしたりして穏やかな一日を過ごした。
そして翌日――
日本から来た、ゴーストバスターの八名は正規ルートの空港から、飛行機で故郷へと帰る事となった。
因みに来る時は、各自裏ルートからこの国へと侵入した。方法は各自様々……機密事項である。
そして面々はこの国の人々に惜しまれつつ、御礼を述べられつつ、空港に着いた。
「おい、怜ぃ……」
「あ、命吉さんが話し掛けてくれたー、これ迄ガッツリ避けられてたのにー」
「う、うるせぇ!」
「命吉……素直じゃないから」
「バカ! 辞めろ見舞ぃ! まるでオレが恥ずかしがってるみてぇじゃねぇかぁ!!」
「その通り、でしょ? ……私達から話がある……怜と……そして、姫美に」
「え? 私!?」
突然話を振られてビックリしている姫美。
「な、何でしょうか?」
命吉と見舞の前へ、おずおずと足を運び、向かい合う姫美。
すると……
「え?」
命吉と見舞が頭を下げた。
「な、何で……頭を上げてくださいよ」
「オレらは賭けに負けたんだぁ……謝るのは当然だろぉがぁ……」
「私達はあなたを疑っていた……ごめんなさい」
「煮るなり焼くなり好きにしやがれぇ」
「命吉、敬語」
「ぐぅっ……煮るなり焼くなり好きにしろぉ……です」
「命吉、敬語が変」
「う、うるせぇぞ見舞ぃ!!」
「え、ええー!?」
とまぁ、こんな感じにおかしな謝罪をして来た命吉と見舞を、慌てつつも相手をする姫美。
怜、彩乃、剣一郎、冥、天地の五名は、その様子を微笑ましく見守っている。
どうやら……証明はされた様だ。
姫美の無害認定は。
そして面々が飛行機に乗る為、歩き出したその時――
「メイ! テンチ! レイ! 皆!!」
八人の背後に声が掛けられる。
振り向くと、そこには息を荒らげるライアルとレイルの姿が……
「ライアルさん!? 何で……?」
「あの……皆さんに、まだちゃんと御礼を言えてなかったので……」
「御礼なんていらないよー、それに昨日家に泊まらせてくれたしー、ご馳走もしてくれたしー、ちゃんと御礼の言葉貰ってるからー、別に良いのにー」
「それでは、私の気が済まないの!!」
ライアルが、涙を流しながら頭を下げる。
「……この国を……救っていただき……本当に、ありがとうございました……心の底から、感謝しています」
するとライアルは頭を上げ、腫れた目でニコッと微笑む。
「どうしても、帰る前にもう一度、ちゃんと御礼が言いたくて」
「ありがとー! お兄ちゃん達ー!!」レイルも明るく御礼を述べる。
「そっかー……天国のお父さんにー、ボクらは少しでもー……報いる事が出来たかなぁー?」
怜のその言葉に、ライアルは笑って答える。
「勿論です! 大報いですよ!」
照れ臭そうに微笑む、怜達だった。
そして、見送るライアルとレイルを背に、八人は飛行機へと乗り込んだ。
出発時刻まで席に座り待機している訳だが……
席が隣となった天地と剣一郎は、会話を交わしている。
「またウチは……『霊王』との戦い、蚊帳の外だった。ウチだけ……ウチの一族はいつもそう」
「気にすんなよー、今回ばかりはしゃーないじゃん。ほら、怜と見舞さん達が揉めてたんだからさー、天地が譲った感じでしょ? 次の機会に倒せば良いんだよ、『霊王』なんてさ! 何せ後、九体も居るんだからさ!」
「うん……まぁ、そうなんだけど……そのつもりでは居るんだけど……何か疎外感ある」
「……意外と面倒臭いね、天地ってさ」
「何をー!! この侍めー!!」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見つめる、姫美と彩乃、見舞と命吉。
「あの二人仲良いわねぇ……」
「これはキてる?」
「アイツら仲良いなぁ、ひょっとして付き合ってん……ぐはっ! ちょ見舞ぃ! 肘打ちすんなぁ!」
「バカ言わないの命吉、分かってるでしょ? あの二人はそれぞれ――」
「わぁーってるよぉ。……心配しなくてもよぉ……」
「……あの二人もぉ、何やかんやで仲良いわよねぇ?」
「これはダブルキてる?」
「まぁ……それに比べてぇ……」
「うん……」
彩乃が、この中で唯一、真面目な雰囲気を醸し出している怜と冥の席へと目を移す。
真剣な表情で、怜と冥は会話を交わしている。
「あそこはぁ、普段仲良いが故にぃ、一番イメージと違う会話をしてそぉねぇ……」
「間違いなくキてないね……」
「いやいや、姉弟でキてたらヤバいでしょぉ……」
「だね……」
冥は真剣な表情で言う。
「調査の結果、あの『霊王』は――
第十の王――『兆力無双』である事が確定したわ。怜ちゃま」
怜は困ったような顔をして返答する。
「あのレベルで、十の王ー? ……先が思いやられるねー……」
「『霊王』は、一の王に数字が近ければ近い程強い……即ち、今回の『霊王』――兆力無双は、『霊王』の中では、最も格下であると言う事になる……まぁ、とは言っても、普通の悪霊に比べたら、別次元の力を持っていた訳だけど……」
「うんー、強かったー……アレ以上の強さとなるとー……ちょっと想像付かないなぁー……想像したくも、ないしー……」
「そうね……それに今回は運が良かったわ」
「何がー?」
「こちらから――死者が出なかったから」
冥のその発言に、怜は神妙な顔で頷く。
「確かにねー……」
「『霊王』は、それぞれが王故に、手を組んだりしない……現れる時は、必ず一体で現れる……それも救いね……これで次も、『霊王』に対してフルメンバーで挑めるわ……本当に良かった」
「…………」
怜はこの時も、老婆の手が言っていた言葉を思い出した。
――『霊王』の中の『霊王』……
「……姉さんー、もしさー……」
「何? 怜ちゃま」
「『霊王』が二体とか三体、同時に現れたらどうなるー?」
「間違いなく、全員今のままだと全滅ね……各々がパワーアップしたとしても、ほぼ確実にこの中から――
犠牲者が現れる」
険しい表情で厳しい事を言い放つ冥。
彼女は続ける。
「今回、こちら側に犠牲者が出なかったのは、本当に奇跡よ……次はどうなるか分からない……怜も、その覚悟はしておきなさい」
「……うんー、分かったー……」
怜は渋々頷いた。
頷きたくは無かったが……頷く他無かった。
これは真実だ――
今後……『霊王』との闘いを続けていくのなら――
この中から確実に犠牲者が現れる。
『霊王』を相手にした時は、姫美の時のような蘇生は出来ない……
人は死んだら生き返る事はない……その真理に基づいての――犠牲者……
『霊王』を倒しても……この国の犠牲者は帰って来ない。死んだのだから――この世から居なくなったのだから……
次は、この中から犠牲者が……
怜は飛行機内の近くを見渡す。
ギャーギャーと騒ぐ天地と剣一郎。
夫婦漫才をしているかのような見舞と命吉。
周囲を観察している弟子二人。
そして、横に座る――実の姉。
彼ら彼女達を見て、改めて怜は思った。
誰一人として、死んで欲しくない、欠けて欲しくない……と。
しかし、それは叶わぬ願いだろう……
彼ら、彼女らがゴーストバスターである限り――
飛行機が離陸する。
すると、冥がちょんちょんと怜の肩を付いた。
「何ー?」
「アレ、見てみなよ怜ちゃま」
「アレ? 何がー?」
怜がふと周りを見ると、他の面々も飛行機の窓に釘付けだ。
何があるんだ? と、怜が冥越しに窓を除くと……
怜達が救った国からのメッセージがあった。
飛行機から見渡せる範囲内での、街街で、それぞれ巨大な応援幕が掲げられているのだ……その横断幕にはそれぞれ、感謝の言葉が書かれている――
『ありがとう!』
『あなた達は神様だった!』
『素晴らしいヒーロー!』
『また来てくれ!』
等々……
「ねぇ、怜ちゃま……この国の人々、喜んでもいたし、悲しんでもいたよね」
「うん……そうだねー……」
「でも、私達が戦わなかったらー、きっと悲しい事ばかりだったと思う……」
「うん……」
「だからさ、今は暗い未来の事を考えるよりさ、この中の皆が全員無事な事を喜んで――あの国の人達からの感謝を……全力で受け取ろうよ! ね? 怜ちゃま! こういうの、嬉しいね!」
「うん……そうだねー、姉さんー」
「だからもう我慢しないわ! ブラコン全開よ! 怜ちゃまー!!」
そう言って、怜に抱き着く冥。
怜はそれを防ぐ。
「それは我慢してー……てゆーかー……もう自分でブラコン言ってるしー……はぁ……」
大きなため息を吐く怜。
そんな風に騒がしい面々を乗せ、飛行機は飛ぶ――
故郷である……日本を目指して。
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