2013年  夏

2/8
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
 タクシーで現場に乗りつけると、すでに現場は規制線が張られ、捜査員たちが慌ただしく出入りしていた。  雅行は規制線の前にいる警察官に手帳を提示して、中に入る。  安普請のマンションのためか、エントランスの中もサウナのように暑い。天井の蛍光灯が切れかかっている。随分と杜撰な管理体質だ。住民からクレームが来ないのだろうか?  雅行は階段で5階まで昇る。最近、めっきり運動する機会が減ってしまい、少し階段を昇っただけで息があがる。更にこの暑さが拍車をかけて、弱った体力に鞭打ってくる。  ようやく5階に到着すると、野次馬と化した住民がこぞって集まっていた。中には現場となった部屋を写メしている不届き者がいた。 「すみません。通してください。はい、はい、あんまり団子になると、危ないからね。良い子はもう寝なさい」  雅行はそう言いながら、現場の部屋に足を踏み入れた。  中は2DKの間取りだった。  都心から離れているものの、東京で十万以下の家賃でこの広さである。同じ都内でも雲泥の差だ。  現場はリビングルーム。冷房は消されているため、そして窓がしっかり閉まっているため、もはや部屋はサウナだ。そして、死体から漂う血生臭さが、不快感に拍車をかけた。  リビングは雑然としていた。テーブルの上には栓を抜いたばかりのワインボトル。グラスには二人分のワイン。ソファに背中を預けるように一人の女性が絶命していた。死因は首を鋭利な刃物で切られた失血死というところか。動脈から飛び散った血がテレビ画面を濡らしていた。テレビでは、何やら映画が流されていた。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!