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アルベティーナはそのような言葉を耳にしたことがない。だから、そこがどのような場所であるのかなど、まったく予想もつかない。
「もちろん、あなた一人で潜入して欲しいとは言いませんよ」
そこでシーグルードはどこかに目配せをした。するとどこに隠れていたのか、この王国騎士団団長を務めるルドルフがすっと姿を現したのだ。
「あなたのパートナーはこのルドルフです。騎士団長でありながら、警備隊長も務めているので、彼も私の直下となります」
(え、ルドルフ団長と?)
またアルベティーナは不安になって、兄のセヴェリを見つめる。だが、セヴェリはじっとシーグルードを見たまま、アルベティーナの方に見向きもしなかった。
「知っているとは思いますが、ルドルフと私は従兄弟同士。父親同士が兄弟ですからね。彼は信頼できる男です」
アルベティーナはルドルフの素性を心配しているわけではない。このルドルフという気難しそうな男とペアになって、裏社交界と呼ばれる場所に潜入すること自体が不安なのだ。
それでも、シーグルードから信頼できる男と言われれば、頷くことしかできない。
「ルドルフ。君のパートナーとなるアルベティーナ・ヘドマン嬢だよ。挨拶くらいしたらどうだい?」
ルドルフはシーグルードの隣に立ったまま、じっとアルベティーナを見下ろしていた。だから、アルベティーナはすっと立ち上がり、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
それでもルドルフはじっと彼女を見下ろすだけ。
ところが突然、アルベティーナの目の前に拳が飛んできた。それをすんでのところで顔を横に倒して避ける。拳の主はもちろんルドルフだ。
「いい反応だ。問題ない。俺のパートナーとして認める」
(何、今の?)
あまりにもの出来事にアルベティーナの心臓は高鳴っていた。
「やめなさい、ルドルフ。せっかくの人材に逃げられたらどうするつもりだい?」
「このくらいで逃げるのであれば、使えない人材だったというだけ」
「君は相変わらずだな」
このように並べば、二人が従兄弟同士というのも頷けるし、シーグルードが彼にかける言葉はどこか砕けたものであり、顔もよく似ている。違うのはその髪の色くらいだろう。シーグルードが金髪であるのに対して、ルドルフはチャコールグレイ。これが同じような髪の色をしていたら、アルベティーナには見分けがつかないかもしれない。それほど二人は似ているのだ。
「ふん。詳しい話は俺からする。アルベティーナ嬢、いや、アルベティーナ。今から俺の執務室に来い。セヴェリは自分の任務へと戻れ。ここまでの案内、ご苦労だった」
「はっ」
セヴェリも立ち上がれば、ピシリと一礼して立ち去っていく。
その瞬間、何とも言えない空気に包まれた。恐らく、セヴェリの存在がアルベティーナにとって支えになっていたのだろう。その支えを失ったということが、彼女を不安にさせたのだ。
「行くぞ」
ルドルフに促され、アルベティーナはシーグルードに頭を下げてから彼の後ろをついていく。
顎を引き、背筋を伸ばし、胸を張って歩く。エルッキやセヴェリからはそう言われたからだ。
(団長って、どのような方なのかしら)
ただ歩いているだけであるのに、アルベティーナの全身には変な緊張が走っていた。カツ、カツ、と二人の不規則な足音のみが廊下に響いている。
騎士の間の前の廊下を通り過ぎ、さらに奥の執務室へ。
「入れ」
それは先ほども足を運んだ部屋。
「そこに座れ。少し待っていろ」
ルドルフはアルベティーナをソファに座るようにと言うと、一度その部屋を出て行った。
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