あそぶ、あそぶ。

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あそぶ、あそぶ。

 これは、僕が小学生の頃の話。  当時、僕のお父さんは営業職というやつで、転勤がものすごく多かった。多いと半年に一度、長くても三年に一度。最終的には管理職になって東京勤務になったということで(そのへん、僕も知識がないのでよくわからないのだけれど)転勤もほとんどなくなったのだけれど。一時期は、学校も何度も変わって苦労したのを覚えている。  当たり前だけれど、そんな環境だと家なんて買えるはずもない。  しかも関東近郊だけの転勤じゃなくて、本州の北から南まであっちにこっちに転勤になったものだから、毎回その土地に慣れるために苦労したものだ。幸い僕は友達を作るのが苦手なタイプではなかったからいいものの、大人しい妹は転勤するたび“もう嫌だ、お父さん会社変わらないで”と泣いていたように思う。  そんな僕が、小学校三年生の時のこと。  この時、僕達が引っ越したのはN県。N県の、それも超ド田舎に父さんの会社の支店がぽつーんとあるようなところだった。幸いなのは、N県のN市は僕の母方の祖父母の家がある場所だったということ。でもって、母方の祖父母の家は、それはそれは大きくて広い日本家屋だった。かなりボロボロだったけれど、僕達家族が一緒に住むには十分な広さだったわけだ。  まあ、夜になると周囲は真っ暗だし、トトロのメイちゃんの家もかくやと思うくらいのボロ屋敷だったこともあって妹は少し嫌がっていたけれど(正月や夏休みに遊びにくるたび、この家怖いから嫌だ、と言っていたのを覚えている)。  どこかで安いアパートを借りて暮らすより、よほど慣れた家であるのは間違いない。  そしてボロ屋を怖がっている妹を慮ってか、祖父母が犬を飼ってくれたのだった。白くて大きな、秋田犬?みたいな犬である。それっぽく見えたが実際は雑種だったのかもしれない。今から思い出すと、日本犬にしては随分毛がもふもふしていたような気がするから。  犬は、妹に一番懐いていた。むしろ、彼女と僕以外の人とはほとんど遊んでいなかったように思う。  この話の主役は、この犬と、僕の妹である。
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