1話

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 あたしは夜になると、黒猫の姿になってしまうのだが。  確か、昔に魔女によって呪いを掛けられた。それは「十八の年までに月の光を浴びなければ、黒猫に完全になってしまう」という物だ。解くには、白猫を見つけなければいけなかった。  そして、飼い主が男性だったなら。口づけさえしてもらえれば、呪いは解ける……らしい。けど、そんな不確定な条件が成立する可能性は皆無に等しかった。あたしは片っぱしから、白猫に出会っては飼い主が男性かどうかを確認しに行ったが。殆ど、女性か男であっても子供やご老人だった。  連戦連敗中で今夜もそうだろうなと決めて掛かっている。猫の足でそろそろと土を踏みしめた。月の光があたしの黒い毛並みを煌々と照らす。 「……ンミャア」 『あら、また白猫さんね』 「ミャ?」  鳴き声が聞こえたので、あたしは試しに近づく。そして、内心で話しかける。どうやら、白猫はあたしの声に気がついたらしい。不思議そうに鳴きながら、こちらを向いた。 『白猫さん、悪いけど。あなたの飼い主さんの所に連れて行って』 「ミャア」  白猫に頼んでみると、一声答えるように鳴いた。すいと背を向ける。そのまま、歩き始めた。どうやら、案内してくれるようだ。あたしは付いて行った。  白猫の後を付いて行くと、1軒の立派なお屋敷に辿り着いた。あたしは元は人間だから、萎縮してしまう。え、この白猫って。こんなに大きなお家で飼われてんの?  そう思いながらも白猫をさらに追いかけた。白猫はピョンと塀を飛び越えて、華麗に地面に着地する。あたしも意を決して塀に飛び移った。地面に遅れて着地した。 「……ミャミャア」  白猫は振り向くと、付いてこいと言わんばかりにまた鳴いた。あたしは代わりに頷く。白猫は再び、前を向くと歩き出す。戸惑いながらも付いて行った。  白猫は裏口らしき扉の前に座り込んだ。すると、キイと扉が開かれる。中から、1人の男性が出てきた。背が高くてスラリとした御仁だ。 「……おや、ルー。帰って来たんだな」 「ミャア」 「ん、他にもいるな。ルー、この子は?」 「ミャミャア!」 「ああ、通りすがりの猫か。んで、お前が連れて来たんだな」  どうやら、白猫はルーと言うらしい。ルーの言いたい事がわかったのか、男性はふむと頷く。 「……ルーが連れて来たんだ、入りなさい。訳ありのお嬢さん」 『……?!』  あたしが驚いて見ると、男性は苦笑いする。 「俺は魔術師をやっているんだ、ルーは使い魔でな。お嬢さんを見て、放っとけなかったらしい。何、悪いようにはしないよ」 『……ありがとうございます、お兄さん』 「ああ、今は中に入って。自己紹介はその後でな」  あたしは頷くと、魔術師だと言うお兄さんに促されて中に入った。  リビングらしき部屋に上がるが。あたしは人間の姿に戻ろうかどうしようかと、思案する。お兄さんはルーに言って、奥に引っ込んでしまった。仕方ない、猫の姿のままでいようか。そう決めて、辺りをキョロキョロしていた。すると、ルーとお兄さんが戻って来る。 「すまないな、お嬢さん。君が着られるような衣類を探しに行っていたんだ。肌着類もあるよ」 『わざわざ、すみません』 「いいって、お嬢さんは呪いを掛けられているんだろう。もし、良かったら。俺が解こうか?」 『え、いいんですか?!』 「構わないよ、初対面とはいえ。俺もやぶさかではない。その、解く方法を知っていたら。教えてくれないかい?」  あたしは躊躇した、お兄さんにどう言ったものやら。それでも、あたしに残された時間は少ない。後、半年と経たずにあたしは十八歳になる。お兄さんは穏やかそうだし、何なら顔立ちも中の上で好みだしな。意を決して、あたしは告げた。 『……あたしの呪いは、ある魔女によって掛けられた物です。十八歳までに月の光を浴び、愛する異性を見つけられなかったら。二度と人間には戻れずに、黒猫の姿のままでいるという。解く方法は、男性が白い猫の飼い主である事が条件ですね』 「……ふむ、なかなかに厄介な呪いだな。それで。解く方法は何なんだ?」 『はあ、その男性と愛し合う事ができたら。口づけをしてもらうんです。そうしたら、呪いが解けますね』 「成程、それが解く方法か。わかった、俺は名をショーン・ブレンという。君の呪いを解くためにも協力するよ」 『ありがとう、ショーンさん。あたしはセレイナ・キアラ。キアラ侯爵家の娘です』 「えっ、キアラ侯爵家?!君、かなり高貴な身分の出だったんだな」  お兄さんもとい、ショーンさんは凄く驚いてみせた。それでも、あたしには他に行く宛もない。ショーンさんのお屋敷に居候する事になった。
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