銀の月

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久しぶりに、南の島の彼の別荘へやってきた。プロポーズされたとき以来の訪問だから、もう数年ぶりということになる。俺と彼にとって、全てが始まった場所でもある。 指を絡めながら空港の構内に入った。構内は前に来たときよりも広く、ファーストクラスのラウンジを思わせる高級感がある。 「え、何、改装した?」 見ればその通りなのに、あまりの変わりようについ口走る。夫は「そうだ」と言いながら頷いた。 「セレブリティ層が金を落とすのは変わりないからな。その金で今あちこちを改装しているそうだぜ」 「はーん」 どうせセレブ層しか使えないんだろうと思っていたら、こっちはあくまでも一般用の空港だそうだ。もしかしたら俺らが次にここへ来た時、本当にリゾート地専用の空港が出来上がっているのかもしれない。 「こっからちょっと遠かったよな、別荘まで」 まぁそんなことはどうでもいい。空港の外に出ると、なんとなく昔訪れたときと変わりない、ローカルで埃っぽい空気感を残っていた。それだけで胸が高鳴るのを感じる。 「そうさ。あの時は俺が迎えに行ったな」 彼も感慨深げだ。俺の大きなキャリーを奪うようにして手に取り、空港の端の方に歩き出す。 「今回は迎えを呼んでいる」 彼はサングラスを頭に乗せながら、ニヤリと笑った。 ー8日頃更新予定ー
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