鼠と恋の年を

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 私の人生にこれまでそんなに問題なんてなかった。その筈だったのに。なんてことなんだろう。  目の前に不思議な生き物がいる。ネズミらしい。見たことは有る。  それは私の好きなバンドのボーカルが時折イラストで描いているキャラクター。 「こんな所に居るなんておかしいから呟かないで」  しかもこのネズミは話している。私に向かって「やあ! こんにちわー」と気軽に表れた。有り得ない。  幻覚を見ているのだろうか。あまりにジキル様が好きすぎてこんなことになってるのか。  ジキル様と言うのは例のボーカル。私と年齢は離れているがとっても格好良い、それは憧れの人。 「俺様はお前のために現れたんだ。そんなことを言うなよなー」 「だってこんな生物が世の中に存在しない。しかも話ができるなんて。そーだよ。私はオタクだよ。ジキル様を愛してやまない。だけど、幻覚を見るほどじゃない。普通のつもりなんだから!」 「一度落ち着けって。なあに、俺様はお前さんが見つけられてないものを教えに現れたんだ。良かったと思え」 「見つけてないもの?」 「そうだ」 「それはジキル様に関係するの?」  その時にネズミはコケてた。 「バカを言うな。これはお前の作り出した姿だ。俺様だって別に下水道を歩く生物の姿なんて好かないんだ」 「夢の国なら人気有るんだよ」 「その話は著作権が危ないから言うな!」  ちょっと笑えてしまう。このネズミと話しているのは楽しい。 「取り合えず私にとってはジキル様の描いたキャラは心の友なの。イメージ壊さないでよ」 「ネズミにどんな良いイメージが有るってんだ」  それからも私たちは言い合いになっていた。それはもう終わりのないくらいに。 「ちょっと、ユウちゃん聞いてよー」  翌日の学校で私は親友に話そうと声を掛ける。因みにユウと言うのは彼女の名前には使われてない。私が勝手に親友のユウの字を取ったあだ名。 「どうしたのさ。またバンドの話?」  まあ遠からずだ。ユウちゃんには良くジキル様のことを話しているからこうなるのだろう。 「ちょっと困ったことになったんだ。幻覚が見えてる」  こう語る私の前には机に胡坐をかいて座っているネズミが居る。  それから私はことの説明をユウちゃんに話す。だけど、ユウちゃんは驚かない。 「別に良いじゃない? 幻覚が見えるなんて楽しいし、学生の間くらいのもんだよ」  なんともポジティブ。
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